2011年3月11日14時46分、マグニチュード9.0という日本の地震観測史上最大と言われる東日本大震災が発生し、情報社会における災害への対応を私たちは初めて体験しました。
多くの日本人が初めて体験する混乱の中、TwitterやFacebookでの情報交換が頻繁に行われ、地震や津波が発生した直後に、Twitterでは5回も1秒間のツイートが5,000件以上になったほか、使用率が平常時の500%にも増えたそうで、震災をきっかけにTwitterを登録した人はおよそ500万人にも上ったそうです。
↑生存率が最も高いと言われている72時間にいかに行動できるかが大切
多くの人がTwitterが災害時に重要な情報源になると考えるようになったきっかけは、広島に住んでいた一人の中学生の行動から始まりました。
当時中学2年生の少年は、「ニュースをネットに流したら、助かる人がいるんではないか」と考え、最初の揺れからわずか17分後、iPhoneでテレビ画面を写してUstreamにアップロードします。
テレビ放送をインターネットでそのまま流すという行為は、通常であれば著作権を侵害した違法配信にあたり、普段は直ちに停止させられるところを、事の重大さから配信業者とテレビ局は容認し、更にテレビ局自らもインターネット上に番組を流し始めました。
テレビ放送がインターネット上に流れているという情報はTwitterを介して瞬く間に広まり、震災当日133万人がUstreamでニュースを視聴したそうです。一般のテレビ視聴者数に比べるとはるかに少ないながらも、Ustreamの通常の視聴者が20~25万人であることを考えると、およそ5.2倍の人に震災の最新情報を届けることができたことになります。
↑Ustream経由で20~25万人がニュースを視聴することができた
通常であれば時間のかかる社内での承認プロセスを、緊急時ということで簡略化し、出来る限りの法的リスクを回避しながら他社と協力し、迅速かつ有用なサービスを実現できたのは、映像関係だけではありませんでした。
たとえばグーグルは、安否情報確認サービスである「パーソンファインダー」を、自社の写真共有サービス「Picasa」と組み合わせることで、避難所の名簿と照らし合わせながら、誰でも生存者の情報を入力できるサービスを提供し、最終的に集まったデータは67万件にのぼりました。
↑政府よりも、いち企業の方がスピードは圧倒的に速い
このデータ全体のおよそ3割にあたる約20万件は、マスメディア、携帯電話会社、警察庁、そして自治体などによって登録されており、寄せられた情報をこのグーグルのサービスを中心に皆で共有したことで、かつてないほどの迅速なスピードで不明者の安否が確認されていきました。
様々な企業や団体、あるいは一般の個人が、独自の情報や製品サービスを活かすことによって援助が成功したように、適切な情報を必要としている人のもとへスピーディーに届けることで、今まで考えつかなかったようなサービスを提供することができるようになるかもしれません。
↑本当にいざという時に役立つのは、いつも使っている身近なサービス
グーグルをはじめとする様々なインターネット企業が、生存率が最も高いと言われている72時間という短い間で、専門家や関係者だけでなく、誰もが必要としているサービスを次々と開発して世に送り出し、平和な状態では「既読スルー」などと煙たがれることもある「既読」の機能をもつLINEも、電話がつながらないなどという非常事態に、相手がメッセージを読んだかだけでも分かるように、というこだわりから生まれたものでした。
LINEの元CEO森川氏は、人々が本当に求めているものを感じ取り、それを具体的なカタチにする技術が大切なのだと、次のように述べています。
「お腹が空いた人に、おいしい料理を出す。冬の寒い日に、あたたかい衣服を差し出す。手持ち無沙汰な人に、手軽なゲームを提供する。どんなことでもいい。人々が求めているものを与えることができる人は、どんな時代になっても生きていくことができる。」(1)
↑人々が求めているものをすぐに形にできる力
Amazonも、自社サービスである「ほしい物リスト」を活用して支援サービスを行っていますが、災害発生当時、避難所でAmazonのアカウントを取り、「今、必要とされる物資のほしい物リストを作る」ことは、インフラが破壊されている被災地においては困難でした。
そこで、早稲田大学大学院の専任講師・西條剛央氏がTwitter上で活動を拡散していた「ふんばろう南三陸町(現、ふんばろう東日本)」というブログと連携して、「ほしい物リスト」を活用した物資の支援を行いました。現在もほしいものリストは機能しており、引き続き活動をしていますが、震災発生から2年経った2013年3月時点で、およそ3万4千個以上の支援物資を届けることに成功しています。
Amazonは世界的な大企業ですが、一企業だけではこのサービスを提供することをここまでスピーディーに成功させることはできなかったのではないでしょうか。
↑ほしい物リストの商品は公開されるごとに、即購入され、被災地へと送られる
近年、クラウドファンディング、クラウドソーシング、そしてクラウドコンピューティングの3つのクラウドによって、企業と一般の垣根がなくなるような新しいビジネスモデルが登場しており、プラットフォームを提供する企業と、それを活用してビジネスを行う企業の共存関係(エコシステム)が出来上がりつつあります。
自社のコア領域を見定めたうえでインターフェースを積極的に開示するオープンモデルが重要になってきており、既に米国ではスマホでタクシーを呼べる配車サービスのウーバー、モバイル端末がスマホ決済可能なPOSレジに早変わりするスクエアなどのエコシステム型のイノベーションが登場してきています。
プラットフォームを提供する企業と、それを活用してビジネスを行う企業の共存関係が生まれたことで、製品開発をはじめとするサービスの提供のスピードは以前に比べて格段のスピードを見せるようになりました。
↑エコシステムに加わる企業が優れたサービスを提供すれば、便利になり、さらにユーザーは増えていく
震災では、YouTubeやニコニコ動画、Ustreamで配信されたテレビニュースが、日本だけにとどまらず海外の人々にとっても重要な情報源となったり、TwitterやFacebookを通して被災地に援助が集まるきっかけにもなったように、皆が使うことができるサービスを目指すことで、協力の輪をどこまでも広げていくことができるかもしれません。
LINEの元CEO森川氏が「ビジネスは戦いではない」というように、成長しきっているといわれる今の経済でも、企業それぞれが個々の強みを活かし、連携することで、これからの世の中のニーズにあった新たなビジネスを生むことができるのではないでしょうか。(2)
(1) 森本亮『シンプルに考える』(ダイヤモンド社、2015)Kindle pp.180-189
(2) 森本亮『シンプルに考える』(ダイヤモンド社、2015)Kindle p.132
参考書籍)
林 信行、山路 達也『Googleの72時間 東日本大震災と情報、インターネット』(KADOKAWA / 角川書店 、2013)
星政明『Amazonの3.11』(KADOKAWA / 角川書店 、2013)
引用書籍)
本ブログは、Git / Subversionのクラウド型ホスティングサービス「tracpath(トラックパス)」を提供している株式会社オープングルーヴが運営しています。
エンタープライズ向け Git / Subversion 導入や DevOps による開発の効率化を検討している法人様必見!
「tracpath(トラックパス)」は、企業内の情報システム部門や、ソフトウェア開発・アプリケーション開発チームに対して、開発の効率化を支援し、品質向上を実現します。
さらに、システム運用の効率化・自動化支援サービスも提供しています。
”つくる情熱を支えるサービス”を提供し、まるで専属のインフラエンジニアのように、あなたのチームを支えていきます。
No Comments