融資や決済といった金融機関が行うサービスに、テクノロジーを組み合わせることで新しい金融サービスを生み出すフィンテック(Fintech. Financial×Technology)は、現在ある金融の仕組みを変えてしまうほどの力があると言われています。(1)
例えば「Capitali.se」という投資支援アプリは、「スターバックスの株が60ドルを超え、コーヒー豆の値段が1%下がったら、500株買う」、「3%の利益か1%の損失が出たら売る」と文章を入力すると、株式市場を監視しているアプリが条件を満たしていると判断したら、自動で売買を行ってくれるようになっているため、株式市場を逐一見る必要もなく、売買の条件も簡単にカスタマイズすることができます。
↑特定の条件を満たしたら、コンピュータが自動的に株を購入する
更に「売買の最適化」を選択すれば、人工知能とビッグデータを活用することで、例えば株を買う値段を60ドルではなく58ドルに、利益は3%ではなく5%にといった具合に調節をし、より多くの利益が出るように売買の条件を自動で変えてくれるようになっているため、企業や業界の動向に関するリサーチの手間や、証券会社によるアドバイザーの手を借りる必要がなくなります。
また、企業が金融機関から融資を受ける場合、利用者は銀行に出向く必要がある上に、審査に数週間待たされるのが普通ですが、Kabbageが提供する融資サービスは、これをオンライン上でおよそ6分で行い、翌日には融資をできるようにしています。(2)
↑企業への本格的な融資もオンラインでたった6分
Kabbageは融資の判断として、企業が利用する会計クラウドサービス、クレジット決済サービス、ネットショッピングサイトでの売り上げや、そしてSNSでのデータを利用し、これらを人工知能が分析することで顧客の信用力を判断する仕組みになっていて、既にオランダの大手銀行「ING」がKabbageと提携を組んでいます。(3)(4)
銀行などの金融機関を通して送金するときには、手数料や銀行口座にアクセスするといった手間がかかりますが、Twitterを創業したジャック・ドーシーが生み出した決済サービスアプリ「Square Cash」は、アプリIDとデビッドカードを紐づけて、相手のIDさえわかれば手数料無し(個人使用のみ)で送金できるという仕組みによって、送金をSNSの投稿のように手軽にしており、実際にウィキペディアやユニセフといったNPOにも利用されています。(5)
↑SNSを通じて、オンライン上でお金が本格的に動き出す
パソコンやインターネットといったIT技術は、大企業や政府からの非中央集権化の動きを進めてきたと言われていますが、これまでは金融機関のみが行えた金融ビジネスにおいても、こうしてIT企業が新しいサービスを掲げて参入し始めてきており、金融の世界においても権力の非中央化が進んでいます。
世界160か国に2億もの顧客を持つ金融機関、CitigroupのヘザーCMO(最高マーケティング責任者)はこうした動きを受けて、金融サービスは金融機関が提供するものだという常識は、過去のものになりつつあると次のように述べています。(6)
「消費者にとって銀行サービスは必要だが、必ずしも銀行が必要なわけではない。」
↑世の中から銀行サービスは無くならないが、物理的な銀行は無くなる可能性がある
これまで金融機関は、実際にお金の動きを管理するインフラの部分、いわばインターネットにおける回線のインフラのサービスと、それ以外のオンラインバンキングやデビッドカードといった、情報サービスの両方を行ってきました。
しかしフィンテックは、この「インフラサービス」と「情報サービス」二つを分化させる特徴があると言われていて、実際にCapitali.seは投資支援、Kabbageは融資審査、Square Cashは送金といった情報サービスを、金融機関のインフラを利用する形で提供しており、金融機関がインフラを、IT企業がサービスを担う構図ができつつあります。(7)
↑新しいシステムは新しい仕組みと古い仕組みがコラボして初めて完成する
また、金融機関が抱える構造的な問題も無くしていくようなITサービスも作られてきており、例えばidscanというIT企業が発表したモバイルアプリは、スマートフォンのカメラで免許証などの本人確認書類を映すだけで(撮影はしないで、ただ向ける)、顔写真や名前などといった個人情報 の入力を自動で行ってくれるため、銀行員によるデータ入力の必要がなくなります。
その他にも、免許証が本物か否かの判定や、本人確認に使える書類であるかどうかを認識するだけでなく、カメラでスマホを持っている人の顔を映させ、それを本人確認書類の顔写真と照らし合わせる仕組みもあるため、これが銀行に導入されるようになれば、口座を開くのに店舗に行く必要も、郵送で書類を送る必要さえもなくなるかもしれません。
↑銀行や金融の仕事も、今後必要なものとそうでないものがはっきりしてくる
こうしたフィンテックによる金融ビジネスの変革に対して、ITベンチャー企業の買収や提携を行うことで、フィンテックにおけるノウハウを手に入れようとする金融機関も増えていて、例えば日本の住信SBIネット銀行は、クラウド会計ソフトを手掛けるIT企業「マネーフォワード」と連携をすることで、複数の口座の一括管理や、使ったお金を食費や光熱費などに自動で分類して、家計簿を作ってくれるアプリを提供しています。
スペインの大手金融グループ「BBVA」のCEOフランシスコ氏に至っては、「BBVAは将来ソフトウェア会社になる」とまで豪語しており、2014年にはIT企業「シンプル」と組むことで、ATMなどの取引状況をスマホで確認できるサービスを導入しましたが、その後BBVAのシステムを土台にして、第三者がアプリを作れるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を公開することで、IT企業との協力を更に強めています。(8)(9)
↑銀行・金融機関はソフトウェア会社になっていく
日経BP社から出版された書籍「Fintech革命」に、「金融機関の人にテクノロジーを教えることは無理だと思っています。むしろ技術者に金融の知識を植え付けるほうが簡単なのではないでしょうか」と述べられていることからも、フィンテックのサービスのアイデアを生み出していくのは、そうした金融について知っているエンジニアであり、彼らこそがこれからの金融のあり方を作っていくのではないでしょうか。(10)
これまでの金融においては、金融機関のみが実権を握っていたため、サービス自体も金融の人のみが考えるものとなっていましたが、フィンテックによる非中央集権化、そしてインフラと情報サービスの分化によって金融サービスは、IT企業などに勤めるエンジニアといった、一般人が考えて作る時代が来たのかもしれません。
参考書籍)
1. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.408
2. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)KIndle p.93
3. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.102
4. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.187
5. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.2267
6. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.607
7. 辻庸介、瀧俊雄「Fintech入門」(日経BP社、2016年)p.42
8. 辻庸介、瀧俊雄「Fintech入門」(日経BP社、2016年)p.170
9. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.607
10. 日経コンピュータ「Fintech革命」(日経BP社、2015年)Kindle p.428
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