テクノロジーが世界を変え、わたしたちのライフスタイルの向上がテクノロジーの変化とは切り離せないものになるにつれて、それを作り上げる技術者の需要は高まるばかりで、コンピュータソフトウェア協会会長の萩原紀男氏によれば、2020年の五輪に向けて4万人のエンジニアが不足するとも言われています。
エンジニアは現代社会において、周囲から重要性を語られることの多い仕事である一方で、アメリカで2015年に500の企業、5,000人の労働者を対象にして行った調査では、ITエンジニアにおいて、仕事に価値を感じている人は17%で、サービス業やコンサルタントなどのITエンジニアではない人と比べて5%低い結果となっています。
また、同じ調査で、会社のビジョンやミッションを知っている人の割合を調べたところ、ITエンジニアにおいては28%で、これは他の業種の労働者より15%も低いという驚きの結果になっています。
↑ITエンジニアのモチベーションは意外と低い
ニューヨークに本社を置く国際的なコンサルティング会社、タワーズワトソンでディレクターを務める岡田恵子氏は、会社のために自らの力を発揮しようとする意欲を作る大きな要素として、会社のビジョンやミッションを信じて理解する 、「考える」の要素があると述べています。
ITエンジニアが仕事に価値を見出せないことの一因は、仕事の中で、ビジョンやミッションを考える機会が少ないことがあるともいえそうです。
ITエンジニアは、個人で担当する仕事が多く、一体誰のためにプログラムを書いているのかという仕事の意義の部分よりも、納期や作業効率などの実務を優先させざるをえない思考になりがちです。また、会社の規模やプロジェクトが大きくなって、作業工程は細分化すればするほど、個々の従業員はビジョンやミッションなどから切り離されていってしまうものなのかもしれません。
↑プロジェクトが大きくなればなるほど、納期に追われる日々が続く
そういった企業で働くITエンジニアが、「意義」について考ることから離れていっている現状に対し、仕事について「考える」ために、フリーランスとなるITエンジニアも多く存在し、かつて楽天での常駐エンジニアだった藤井無限氏もフリーランスに転向した理由を次のように語っています。
「結局、組織に属するエンジニアのままでいると、自分の働き方も案件次第になるため、もっと自分にあった働き方ができないか、このまま与えられた仕事をこなす日々を続けて行っていいのか疑問が頭をよぎるようになったんです。」
↑このまま、ただ与えられた仕事をするだけで良いのか
実際に、クラウドソーシングを通じて仕事をする人が増えており、矢野経済研究所の調査によると、2017年にはクラウドソーシングの国内市場規模は、1,473億円に達すると予想されています。
また、技術者・研究者に特化した「ResQue」というクラウドソーシングサービスや、IT/Webエンジニアのマッチングサイト「スマキャリ(Smart-Career)」にも多くの大学研究者やエンジニアたちが集まります。
現在、フリーランスエンジニアがゼロからのプログラム開発やアプリ開発といった業務まで手がけることは珍しくありません。今後はより一層深くクライアントとつながり、仕事の意義を理解し、納得した上で、仕事ができるようになっていくと思われますが、ITエンジニアにおいても、仕事に価値があると考えられるようになる人が増えてくると言い換えることができるのかもしれません。
↑自分の価値観と仕事の意義を一致させて働く
さらに、現在では企業の一員というバックアップがなくても、思いついたアイデアを実現するための資金調達から、デザイン、製造、マーケティング、そして販売まですべてを個人でできてしまうシステムが整いつつあり、日本のクラウドソーシングサービスの草分けともいえるランサーズの秋好陽介氏は、次のように展望を語っています。
「クラウドファウンディングと組み合わせると、アイデアを募集して、お金を集めて、クラウドソーシングで仕事をして、3Dプリンタなどでものづくりまでできてしまう。」
↑アイデアから製造まで実質、自分でできてしまう
現代版のパトロンのシステムとも言えるクラウドファウンディングは、まだ日本では5年ほどの歴史しかありませんが、国内最大手の「READYFOR?」を通じて成功したプロジェクトは、2015年12月の1ヶ月だけで1,636個あり、合計支援額は15億8,671万円を達成していることからも、新しい資金調達方法は、確実に世の中に浸透し始めています。
3Dプリンタについても、作れる製品は多岐に渡り、金属や木をはじめ、お菓子や料理、さらには臓器や骨にまで適用されています。
なかには建物のような大規模な構造物も3Dプリンタでの建造が可能になり、オランダのアムステルダムでは、鋼橋架設工事も進行しています。(2015年現在)
クラウドソーシング、クラウドファンディング、そして3Dプリンタによって、個人のアイデアを、クラウド上で世界の別の場所にいる他人と協力して作るという、仲介や物流などが発生しない、直接型かつさまざまな規模を手がけるビジネスモデルが、今まさに実現しつつあります。
↑人・モノ・お金をオンラインで結びつける
今後は、ITを使ってスクリーンに映し出されたイメージに過ぎなかったものを、スクリーンの外側で実際の「モノ」として作り上げ、人間とモノの新しい関係をつくる「メイカーズ」という人たちが市場に台頭していくことになるでしょう。
これによって、巨大資本を持つ大企業が、大量生産で利益を出すという製造業のモデルが勝ち組であった状況を変えることができると考えらえていて、かつてWIREDの編集長を務めていたクリス・アンダーソン氏は、このビジネスモデルの転換を「メイカーズ革命」と呼んでいます。(1)
クリス・アンダーソン氏は、大企業よりもスピーディーに製品やサービスを開発し、アレンジすることが可能なメイカーズは、世界中の無数の端末(モノ)がインターネットに繋がる「IoT(Internet of things)」の先導役を務めるはずだと述べています。
↑大量生産ではなく、本当に価値のあるものを少数で作る
メイカーズの一例として、2014年に日米で1,100万ドルの資金調達に成功した、電動車椅子を開発している「ウィール(WHILL)」は、そのソフトフェアに特徴があり、スマートフォンを使って、遠隔操作で自分のところに車椅子を呼び寄せたり、アプリによって速度や加速度を調整できます。
また、将来的には内蔵されたセンサーにより、通った道のデータを蓄積して、車椅子が移動しやすい経路を地図に表示させることも可能だということです。
↑多くの人に受け入れてられる大量生産ではなく、本当に必要なものだけをしっかりと作る (リンク)
ウィールが新しいカタチの車椅子を制作するにあたって、「墨田加工」という町工場の技術を採用したとのことですが、その橋渡しをしたのは、墨田区の町工場約3,500件の情報を集約したプラットフォームでした。
このプラットフォームはリバネスという会社が提供していて、リバネスの米国子会社やシンガポール子会社が、技術や工場だけではなく、ノーベル賞受賞者や最先端の研究者を集めて知識のプラットフォーム化を進めていることを考えると、世界中に散らばっている知識や技術、そしてテクノロジーが直接的につながってイノベーションが起こり、さまざまなアイデアが実現可能となることが予想できます。
↑デジタル化できるものは、ウェブ上ですべて共有される
これからIoTが進む社会では、物理的に触れることができる構造物「アトム」が生み出されるためには、それを構築し動かすための情報技術「ビット」が必要となり、ビットにかかわるITエンジニアは、すべての分野の「モノづくり」に深く携わる職人としての意義がましていくでしょう。
生体認証システムの第一人者であり、現在は優良スタートアップの育成に携わる齋藤ウィリアム浩幸氏は、まだまだ日本のメーカーにはハードウェア偏重の文化があると言います。
メイカーズ革命によって、エンジニアという仕事が、アイデアから製造の過程まで一貫してかかわって理念を実現させるという形へと変化していけば、仕事に価値を感じるエンジニアが増えていくことも望めるのかもしれません。(2)
参考書籍)
(1)小笠原治「メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる」 (NHK出版新書、2015年) p126(Kindle版)
(2)佐藤ウィリアム浩幸「IoTは日本企業への警告である」(ダイヤモンド社、2015年)p1,462(Kindle版)
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