「反対意見があれば積極的に発言して欲しい」多くの職場で上司がこれに似た言葉を述べているのを聞いたことがある人はたくさんいると思いますが、実際部下からの反対意見に真剣に耳を傾ける上司はどのくらいいるのでしょうか。
実際に組織のリーダーでも、自分の思っていることを裏付ける事実にばかり目がいってしまう「追認バイアス」が無意識のうちに働いてしまうため、自分自身の判断や行動を正確に評価することはとても難しいことです。(1)
また、部下の中には、上司に何か意見を述べたり間違いを指摘したりすることは上司のプライドを傷つけるのではないかと考えてしまう人も少なくありませんが、宇宙飛行士の古川聡さんはこの点について「上司にそんなプライドがあるとすれば、それは間違ったプライドです」と述べています。
↑プライドは傷つけられてこそ価値がある
実際、コンサルティングファーム最大手のマッキンゼーでは、優秀さや地頭の良さといったことよりもリーダーシップに重点を置いて採用を行っているそうですが、それはリーダーシップがないと反対意見を言うことができないからだそうです。(2)
反対意見を言われると時に自分の人格まで否定されてしまったように感じてしまいますがそれは大きな間違いで、より建設的で生産的な話し合いを行うための提言と単純に嫌いな相手を貶めるような発言とはまったく別のものであるということを認識しなければなりません。
↑どれだけ頭が良くても反対意見を言えないようでは問題は解決できない
アメリカ軍は、多くの人命や莫大なコストが伴う重大な意思決定を行わなければならない時に、思い込みによって間違った決断をしてしまわないように「レッドチーム」という仕組みを取り入れています。(3)
レッドチームとは、「トップの判断が間違っている」という前提に立って、批判的な評価や分析を行い、徹底的に反対意見を述べる専門チームのことで、このレッドチームがいることによって、組織は自分たちの行動を異なる視点から新鮮な目で見ることが可能になり、戦略の穴や盲点を見つけることができるのです。
↑社長の言葉を信じているようでは正しい決断はできないでしょうね
2007年、シリア東部の渓谷地帯に原子炉と思われる巨大な建造物が建設されているという情報を得たアメリカ政府はこの施設を空爆するべきか否かという非常に難しい決断を迫られました。
アメリカはイラクが大量破壊兵器を保持しているという誤った結論に達した過去があり、今回こそは間違いがないようにと慎重になっていたブッシュ政権の諜報情報機関部は、このレッドチームの考え方を採用して、1つのチームには「イエス」、つまりそれが原子炉であることを、もう1つのチームには「ノー」、それが原子炉では無いことを証明せよと命じたのです。
結果的にこの施設をアメリカ軍が空爆することはありませんでしたが、NOのチームがどうしても対象の建造物が原子炉以外のものであるという筋書きを考えることができなかったため、ブッシュ大統領はシリアの砂漠に建設されている施設が原子炉であるというより強い確証を得て、より包括的で精度の高い情報をもとに意思決定を行うことができました。(4)
↑戦場で生き残るにはあらゆる可能性を考慮しなければならない
同じ様に物事を反対側の視点から見るということで言えば、セキュリティ業界ではハッカーを雇用して実際のサイバー攻撃に対するシステムの脆弱性を検討するということが度々試みられており、日本政府も2015年からハッカーの登用を行い、各省庁に対するハッキングテストを行っています。
似たような取り組みとして、アメリカ国防総省は全米のセキュリティ研究者に政府ネットワークへの侵入を試みさせて、バグを発見した人には報奨金を支払うという「Hack the Pentagon」というプログラムを行っており、合計138件の脆弱性をセキュリティ企業に依頼する10分の1ほどの価格で発見することができたのです。
↑全く異なるタイプの人の考え方に学ぼう
元ハッカーでありながら現在はセキュリティ業界で働くカル・リーミング氏によれば、元ハッカーを雇用することへの否定的な意見を示している人たちは物事を反対側から見たことがない人であるといい、「元ハッカーを雇うとは、スキルを雇うのではなく、ハッカーとしての思考回路を雇うということである」と述べています。
サイバーセキュリティの専門家を雇い、彼らがどんなに優れた理論を理解していたとしても、現実世界がどのように機能しているのかということを知らなければ、それは所詮机上の空論にすぎず、斬新奇抜な発想をするハッカーの頭の中を推測することなど決してできないのです。
↑目には目を、ハッカーにはハッカーを
自動車メーカーのGMを世界最大級の会社に成長させたアルフレッド・スローン氏は、反対意見が出ない案は検討が不十分であるとして結論を出させなかったそうで、経営学の第一人者であり「マネジメントの父」とも呼ばれるピーター・ドラッカーも、意見の対立について次のように述べています。
「マネジメントの行う意思決定は、全会一致によってなされるようなものではない。対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断の中から選択が行われて初めて行うことができる。したがって、意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである。」
(5)
↑「反対意見がありません」と言うのは「私は頭を使っていません」と言っているのと一緒
「摩擦を恐れるな。摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でないと君は卑屈未練になる」という言葉を残した電通4代目社長の吉田秀雄氏は、当時まだ学生だった博報堂第3代社長の瀬木博親氏に向かって、「学校を卒業してストレートにオヤジの会社に入社するのはどうかね。しばらく僕のところへでも来て修行しないかね」と言って自分の会社である電通に誘ったそうです。
組織の従業員やスタッフなど、人は誰しも長年にわたる習慣的な行動を通して身につけた考え方は居心地よく感じるもので、その結果作られるものの見方を通して事実や出来事を理解するため、気がつけばいつの間にか組織の悪いところは目に入らなくなり、そのために目の前の問題や今後の課題といったことに対処することもできなくなってしまいます。
こういった人の特性を考えれば、反対意見を口にすることができない環境をそのまま放っておくと、いずれそれは失敗の原因につながってしまうものだと覚えておいたほうがいいでしょう。
1. ミカ・ゼンコ 「レッドチーム思考 組織の中に『最後の反対者』を飼う」 (文藝春秋、2016年) Kindle 207
2. 伊賀泰代「採用基準」(ダイヤモンド社、2012年)
3. ミカ・ゼンコ 「レッドチーム思考 組織の中に『最後の反対者』を飼う」 (文藝春秋、2016年) Kindle 100,101
4. ミカ・ゼンコ 「レッドチーム思考 組織の中に『最後の反対者』を飼う」 (文藝春秋、2016年) Kindle 115, 126, 146, 156, 167
5. 上田惇生 編訳 「マネジメント【エッセンシャル版】―基本と原則」 (ダイヤモンド社、2001年) p152, 153
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