(Photo by:Jason McELweenie)
2007年に当時22歳だったマーク・ザッカーバーグは、スタンフォード大学で「若者のほうが賢い(younger people are just smarter)」と語ったと言われていますが、シリコンバレーでは、今では若いエンジニアを雇用する傾向がますます強まり、年配のエンジニアが突然解雇されたり、その後再就職先を見つけたりするのが難しくなっています。
アメリカの労働者の平均年齢が42歳であるのに対し、フェイスブック、グーグル、AOL、そしてジンガの平均年齢は30歳、もしくはそれ以下であると言われており、編集者のNoam Scheiberは、「シリコンバレーはアメリカで今やもっとも年齢で差別される場所となった」と評しました。
↑「若い人の方が賢い」(Photo by:TechCrunch)
イギリスにおいても同様の状況が見られ、IT関連の業種の貢献度は、2012年の時点で同国の経済の8.4%を占め、今後10年の間に5倍の増大が見られると予想されているため、エンジニアの求職率は高いにもかかわらず、新卒ばかりが採用されるため、失業率は一向に減りません。
若い世代のエンジニアが好まれる理由はいろいろありますが、頭が柔軟で順応性があり、会社のために進んで多くの時間やエネルギーを費やす点が挙げられます。
↑若者はコミットできる時間やエネルギーのレベルが違う(Photo by:Bob Familiar)
IBMのデボラ・リチャーズは、「我々は順応性があって柔軟な人材を求めています。我々は物事が10年前と異なり、急速に変化する時代に生きていることを認める必要があります。」と自社の雇用方針についてコメントしています。
年配のエンジニアは家族との生活を大事にするため、午後6時には会社を退社しますから、すべての時間を会社に捧げることはできません。それに対して、若者は24時間すべてのエネルギーと時間を会社に費やします。特にスタートアップ企業であれば、経営者はそうした人材を欲しがるのは確かに合理的な選択と言えます。
↑スタートアップに必要なのは、とにかくハードに働く人(Photo by:Heisenberg Media)
シリコンバレーでエイジズム(年齢を理由とする差別)が見られる別の理由は、人件費です。経験を積んだエンジニアを雇おうとすれば、当然それに見合うだけの給与を提供する必要があり、多くのベンチャーにはその余裕がありません。
「余計なスキル」を身に付けてしまった経験ある年配のエンジニアに多くの給料を払うよりは、「白紙」の卒業したての若者を半分以下の人件費で雇い、トレーニングしたほうが、まだコストを抑えることができるというのは、競争社会では当たり前になってきています。
↑先輩のエンジニアを雇うより、若者を教育した方が早いというのが本音 (Photo by:Heisenberg Media)
こうした状況に対して、政府も何の法的整備をしてこなかったわけではありません。アメリカでは、早くも1967年に年齢差別禁止法(ADE)によって、エイジズムが厳しく規制されてきました。
2010年に60歳のエンジニアであったブライアン・ヒースがグーグルを相手取り、40歳以上の雇用を制限しているとの裁判を2015年にカリフォルニア・サンノゼの連邦裁判所に提起した事例もあります。彼によれば、IBMやCompaqなどでの職歴があったにもかかわらず、グーグルは彼の年齢のみを理由に短い電話のみで雇用しないことを決めたと主張したそうです。
しかし、若いエンジニアが好まれる傾向は今後も続くと予想されています。その理由として、人材エージェント会社の責任者、ジョン・バターフィールドの言葉を借りれば、「コストを下げることがもっとも重視されるこの社会においては、すべての決定は価格に基づいてなされる」、この一言に尽きるかもしれません。
↑どれだけの価値を提供できるか、この一言に尽きる(Photo by:WOCinTech Chat)
他方でモノのインターネット(Internet of Things)という言葉があるように、ITはますますあらゆる分野にかかわるようになっており、若い人材だけで、それらすべての分野においてソリューションを提示できるのか疑問です。
とりわけ今後IT化が必要になる分野として、東京で介護サービスを営む「ケアワーク弥生」の飯塚裕久氏は、「介護のIT化は全く進んでいない」と語り、医療分野では電子カルテやセンサーのようなハードウェアでもITが進んでいるにもかかわらず、これまで介護業界でIT化がなされてきた分野は介護記録や、保険請求程度だと言います。
これだけIT化が必要とされているにもかかわらず、介護業界に参入するエンジニアがほとんどおらず、ITと介護を結びつけようとビーブリッドという会社を立ち上げた竹下康平氏によれば、過去10年ほどの間に全国で1000人以上のエンジニアに会ってきましたが、介護業界を目指すエンジニアはひとりもいなかったそうです。
↑まだまだ、IT化が遅れている分野は山ほどある(Photo by:Fechi Fajardo)
イギリスもアメリカも、社会は高齢化していますが、世界のトップを走っている日本は、2025年に超高齢化社会を迎えます。4人に1人が75歳以上の高齢者で、100万人の介護不足が生じると予想されており、2055年には高齢化率は39.4%にまでなると言われています。
こうした社会を目前にして、東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の廣瀬通孝教授と研究チームは、「高齢社会の人口構造ピラミッドを逆手にとって高齢者が若者を支える社会」を目指しており、彼らによれば、ITを活用し、高齢者の知識や匠の業を活かすことで、ビジネスで活躍してもらおうと考えています。
↑知識・経験は高齢者の方が圧倒的に多い(Photo by:Kamyar Adl)
確かに介護のIT化にしろ、他の分野の匠の業にしろ、空白になっている、あるいはこれからなろうとしている部分をあきらめずに、そこに経験ある年配のエンジニアという「ピース」をはめ込むことは考えられないでしょうか。
介護なんて想像もできないような30歳以下のエンジニアが、ITによるソリューションにどれだけ心を砕いて考えられるのか疑問ですし、それならいっそのこと、再就職先が見つからない、でもまもなく介護をされることも視野に入れ始めているエンジニアに設計してもらったほうが、ユーザーにも使いやすいものがたくさん生まれるはずです。
エイジズムの問題は、「別のどこかの年配者の問題」でなく、誰もが老化していくため、「自分のこと」として捉える必要があります。そして今、エンジニアの間で生じているエイジズムの現象は、自分がどんな働き方をしたいのかという問題を私たち一人一人に否応なしに問いかけているような気がしてなりません。
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