(Photo by:aki sato)
今年発表されたアメリカでの調査で、ソフトウェアエンジニアは、給与、昇給、そして雇用の可能性において、医者に続いて2番目によい職業だと評価されましたが、日本ではSE(システムエンジニア)といえば、「激務」のイメージが強く、最近では、かつてから言われていた「きつい、帰れない、給料が安い」の“3K”を超え、「結婚できない」、「キリがない」、さらには「化粧ののりが悪い」なども合わさって“5K”とも“7K”とも言われるようになりました。
↑このままいくと何Kになる?(Photo by:reynermedia)
SEの仕事が大変であることの理由として、もともとひな形のあるものではなく、境界線が不明確なものを創り上げていくため、誰が読んでも100%同じように理解できる作文が存在しないように、クライアントなどを含めた関わる全員が、共通の認識を持つことが難しいことがあげられます。
↑SEの仕事は全員が共通の認識を持つことが難しい (Photo by:Bruno Cordioli)
その点から来るSEの難しさは世界共通のようで、「クライアントの窓口になっている営業に話が伝わらず、専門知識のないクライアントは、無理難題を押し付けてきて、結局まとまらない議論の末、スペシャリストとしてSEに仕事が丸投げされる」といった打ち合わせの状況を動画にした、The Expert (Short Comedy Sketch)の再生回数が、1000万回を超え話題を呼んでいます。
この動画では、「緑と透明な線で赤い線を描いてほしい」とクライアントから無理難題を突きつけられ、話が二転三転しながら、最初とは全く違う方向に進んで行き、自社の営業や部長などの圧力で、SEが半ばあきらめた形で終結しますが、実際にこのコメディ動画の状況に似たような、笑ってしまうくらい非常識で、考えられないことをクライアントから要求された経験を持つ技術者たちは、世界中に数多く存在するようです。
↑結局、SEにすべて丸投げされる(Photo by: Jirka Matousek)
このような状況は、SEの世界だけではなく、デザイナーの世界でも同じことで、あるアイルランドのデザイナー集団は、いかに不条理なことを要求されているかを、もっと知ってもらおうというプロジェクトを立ち上げ、クライアントから受けた以下のような不思議な発言を72枚のポスターにしました。
「これいいね、でも、雪をもう少しだけ温かくみせてくれないかな?」
「我々のターゲットは、男性と女性、年齢層は0歳以上だよ。」
「(後ろ姿の写真をみて)photoshopで、逆にして前面を見せる事できないの?」
↑雪をもう少しだけ温かくみせてくれないかな?(Photo by:Marco Bellucci)
オーダーメイドだからといって、「何でもアリ」なわけではなく、無理難題を押し付けられる事が、SEを含めた技術者にとってどれだけストレスになるのかを、クライアントのほとんどが理解していません。
2020年までにアメリカ人の40%がフリーランスで働くようになるだろうと予測されていますが、クライアント側においても、あいだに人が入らないSEとの直接的なコミュニケーションはますます増えていき、SEに対して「専門的なことは分からないから」と勝手な要望だけを主張だけするだけでは、仕事は成り立たたなくなってくるでしょう。
↑開発を委託する側もしっかりとした専門知識が必要(Photo by:Intel Free Press)
ペンシルベニア州立大学工学部やハーバードメディカルスクールで、科学者やエンジニアに特化したコミュニケーション論の専門家メリッサ・マーシャルさんは、科学者、エンジニア以外の一般の人たちと、考えを共有し意思疎通を図るためには、自分たちから積極的な働きかけが必要であると、語っています。
「門外漢の私たちにも問題を理解する責任があると思います。 意思疎通を図るためには、彼らに不思議の国へと招待してもらう必要があります。科学者とエンジニアの皆さん、どうか私たちに熱く語ってください。」
↑もちろん、エンジニア側にも問題はある(Photo by:Idaho National Laboratory)
メリッサさんは、ストーリーにすることで専門分野の扉が開き、魅力的な「不思議の国」に誘われると語り、技術者がよく使いがちな箇条書き(bullet point) は、その名のとおり、プレゼンテーションの良さを殺してしまいます。
技術者が多用しがちな「箇条書き」や「専門用語」は、シンプルだから伝わるということはほとんどなく、その事柄が聞き手にどう関連するのか、自分の情熱をどうストーリーにしていくかが大切で、次の時代のSEはエンジニアであると同時に、芸術家としての才能も磨いていかなければなりません。
↑SEはエンジニアであると同時に芸術家でなければならない(Photo by:Nana B Agyei)
システム開発業界におけるコミュニケーション論の研究も進んでおり、オラクルでシニアテクニカルコンサルタントとして働くBrume Oduaran氏は、「1986年のチャレンジャー爆発事故の原因の一つは、開発段階におけるコミュニケーション不足から起きたのではないか」と述べていますが、重要な問題ほど、技術面での解決は難しく、タスク管理で理解し合うのではなく、もっと感情や意思疎通ベースで理解し合うことで、防げるトラブルも少なくありません。
また、エンジニア自身も、どんどん賢くなっていくコンピュータに頼るのではなく、まずは人としての感覚で、クライアントがコンピュータに頼る本質的な意味をきちんと把握できるよう、コンピュータから離れて考えることが、今後ますます大切になってきます。
↑「感性」や「適当さ」など人間的な感覚が今後最大の付加価値(Photo by:Andy / Andrew Fogg)
LAのベンチャーファンドMucker Capitalのウィリアムさんは、ITベンチャーへの投資家としての視点から、IT企業においては、「Techie」(技術)の部分と「Fuzzy」(あやふや)の部分に橋をかける考え方が肝心で、そうすることでユーザーにすばらしい体験をもたらすことができると述べています。
その橋渡しを上手に行う為には、技術部分とあやふやな部分の両方を理解する必要があり、学校で学べる技術や知識以外に、「良い意味で適当な感覚」だったり、運動をしたり、小説を読むことで身につく感性など、ある意味人間的な経験をバランスよく持つことが大切になってきているとも言えます。
↑専門的な技術と「あやふや」の交差点をどう見つけるか(Photo by:NASA Goddard Space Flight Center)
実際にKickstarterなど、数々のクラウドファンディングにでている人気の企画や商品は、「人を楽にする」ための商品開発である場合が多く、例えば、いつでもどこでも睡眠を誘導し、睡眠サイクルを記録、最適なタイミングで起床を促す、魔法のヘッドフォン Kokoon Egg Headphoneは、予定の10倍以上の資金を締め切り前に集めています。
Kickstarterでは、革命的な発明や、最新のシステムを採用した新製品を世に出すために、資金調達をすることが目的なため、まず、資金を出してくれる一般の人たちに、自分たちの新しい発明が技術的な面で、どこが優れているのか、人の暮らしをどのように楽にする製品なのかなどを、わかりやすく説明する必要があります。
↑人間力「分かりにくい専門的な話を、いかに分かりやすく伝えるか」(by:hackNY.org)
「SEのフシギな生態 」という本の中で、きたみ りゅうじさんは、SEが「楽」を追及することは非常に大切だと述べており、「楽」に話し合いを進める方法の一つとして、人は、大中小のどれかを選べといわれると、中を選ぶという一般的な心理に基づいて、自分が選ばせたいものを真ん中にくるようにしむけるとよいと述べたりしていますが、技術を基準とした「可能」「不可能」の視点を変えて、「楽」に照準を当てれば、キツイのが普通になってしまった仕事環境も、どんどん変わっていくのではないでしょうか。
SEの7Kが進み、「孤独」や「体を壊す」といった今後予測される“K”の増加を防ぎ、「楽」や「理解がある」など、“R”を作り出すことで、過去(K)から理想(R)へとシフトていくのも、まだ未完成なITという業界を創っているエンジニアの仕事なのかもしれません。
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