イスラエルという国名はそもそも、旧約聖書に登場する彼らの祖先であるヤコブが天からの神の使いと格闘したことから与えられた名前で、「神と闘う者」という意味があるそうです。
そして、神との闘いにおいてもひるまなかった強さと粘り強さは、今のイスラエル人にも受け継がれており、失敗を恐れず、ひらめきをモノに変える国民性を持つことで知られています。
イスラエルの国土は四国と同程度、人口は大阪府と変わらないくらいであるにもかかわらず、8,000社前後のベンチャー企業があり、2013年時点で74社がナスダックに上場(日本は12社のみ)し、アップルやGoogle、マイクロソフト、そしてフェイスブックまでもが、イスラエルのベンチャー企業を買収していることからも、この国がいかにベンチャースピリットに富んでいるかが分かります。(1)
↑四国と同じ面積に8,000社のベンチャー企業がある
PayPalを創業し、今は起業家・投資家として活躍するピーター・ティール氏は、多くの人が資本主義と競争をほぼ同義語のように考えていることに疑問を呈し、自ら創業したPayPalや、Google、そしてFacebookの事例を引き合いに出した上で、スタートアップにおいては未踏の地に飛び込む「独占」こそが成功する企業の特徴であるとしています。その点、イスラエルは、その市場の小ささゆえにまさにその条件にかなっており、ベンチャーが育ちやすい環境が整っているのです。
同氏はまた「何かを始めるにあたって最も重要な決断は『誰と始めるか』だ」と述べますが、イスラエルは小国であるゆえ、「人は互いに繋がっており、起業を志す若者が先達を探すのも容易」だとVoIP技術でナスダック上場を果たしたDeltathreeの創業者、ジェイコブ・ネル・ダヴィドはイスラエルの特徴を評します。(2) (3)
↑その市場が小さいから独占しやすく、お金や人も集まりやすい
そういった仲間を得やすいというイスラエルの文化に加え、ゼロからイチを生み出すベンチャー起業がイスラエルにこれだけ多いのは、常に新しいアイデアによって国を守り抜いてきたイスラエルの人たちが、「頭を使うこと」において、何世代もの研鑽を積んでいることにもあるのかもしれません。
イスラエルは、過去に新バビロニア、ローマ帝国に二度にわたって祖国を奪われ、西暦70年以降は、ユダヤ人たちは世界各地に離散したものの、1900年もの時を経たのち、1948年に現代のイスラエルを建国し、その後も四度の中東戦争を経ながら、祖国を維持してきました。
イスラエルのハイテクベンチャー企業の技術・製品の開拓を手掛けるジャパン21の代表取締役加藤充氏も、イスラエルの人たちの国民性について「自ら国を守り、頭脳をもって国を興す必要性があった」と述べていますが、建国時の不可欠なインフラとして、水の確保、灌漑設備を整えたことは、まさにその象徴的な事業と言えます。
↑常に危機感があるため、頭を使うことに慣れているイスラエル
日本でもキャンプファイヤーやフォークダンスの定番曲で知られる「マイム・マイム」という曲がありますが、実は起源はイスラエルであることを知る人はそう多くはないでしょう。
「マイム」とはヘブライ語で「水」を意味し、旧約聖書のイザヤ書12章3節の「あなた方は喜びをもって、救いの井戸から水を汲む」という言葉から引用され、国土の60%が荒野だったイスラエルの地に国家を建設するにあたって、世界中から集まってきたユダヤ人を鼓舞する曲だったと言われています。
何とかして水の供給量を増やすべくテクノロジーを使って、海水を淡水化する技術、水再生技術を発展させてきた、その原動力になったのは、どんなに苛酷な環境であっても神から約束された土地に国家建設を成し遂げなければならないというイスラエル人すべてに共有されているビジョンでした。
↑ビジョンの在り方は時代によって変化するが、強い意志だけはずっと変わらない
現在、イスラエルの水消費量の20%近くは海水から淡水化されたものですし、2020年にはその割合は50%にまで上昇するとされています。また、下水のリサイクル率は83%と世界一位、日本が2%にも満たないことを考えると、この分野でのイスラエルの技術がいかに突出しているかが分かるはずです。(5)
そのため、イスラエルには水技術に関する多くのスタートアップが生まれており、どんなに濁っている水でも1時間でWHOの水質基準を満たす飲料水をコップ8,000杯生産できる設備を備えたクルマを開発したG.A.L.Water Technologiesや、大気中から水分だけを取り出して、飲料水を生成する製品をインドの家庭向けに販売する計画を持つWater-Genなど、例を挙げればキリがないほどです。(6)
↑危機感が常に新しい技術を生み出す
前述のピーター・ティール氏が、成功例をコピーすることを「水平的進歩」であるのに対し「ゼロからイチを生み出す垂直的な進歩を一言で表すと『テクノロジー』」と述べるように、まさにイスラエル人は、誰も直面しなかったような問題解決の手段としてテクノロジーを武器にして、ゼロからイチを生み出し、夢を現実化してきたのです。(4)
イスラエルのシモン・ペレス元大統領は、「想像力がなく、夢を見ない人間に未来はない」と述べますが、祖国を持たない歴史を持ち、建国してからも危険と隣り合わせの生活を送っているイスラエル人にとって、夢とは日常と切り離されたものではなく、実は「約束の地で家族と一緒に安心して暮らしたい」というごくシンプルなものに過ぎません。(7)
↑「約束の地で家族と一緒に安心して暮らしたい」という概念から出てくる新しいアイデア
そして、とてつもない理想郷を描こうとするのではなく、日常の延長線上という視点で「想像力」「夢」を捉えれば、わたしたちも自ずと自分たちが暮らしたい社会を描けるはずです。
例えば、1996年にパソナの社内ベンチャーとして社員10人ほどで立ち上げられたベネフィット・ワンは、会社の福利厚生が日本の大部分を占めるサラリーマンとその家族の幸せに直結していることに目をとめました。そのビジョンを達成するために、同社は福利厚生のアウトソーシングを進め、その質を向上させることにより、現在は東証一部上場企業の45.3%、公務団体の46.6%がこのサービスを利用するまでになっています。
↑日常の延長線上に想像力を生み出す
よく日本にはベンチャースピリットが育たないと言われることがあり、そこには様々な要因が関係していますが、最も根本的に欠如しているのが「夢見る力」「ビジョンを描く力」なのかもしれません。
イスラエル人の「想像力」「夢」の背後には、数千年に渡る国家の歴史と宗教が横たわっており、それを日本人が真似ることはできませんが、一人ひとりがどんな社会にしたいのか、まずはじっくりと想像力を働かせることから始めてみる必要がありそうです。
二言目には「もっと現実的になれ」と言っているようであれば、次の世代が、荒野で水を生み出すような、ゼロからイチを作り出す「テクノロジー」という解決策を生み出す芽を自ら摘み取っていることになるのです。
(1)(3)WIRED VOL.22 (2016年、WIRED編集部) Kindle版、p.101
(2)ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ 「 ゼロ・トゥ・ワン-君はゼロから何を生み出せるか」 (2014年、NHK出版)Kindle版 p.1954
(4)ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ 「 ゼロ・トゥ・ワン-君はゼロから何を生み出せるか」 (2014年、NHK出版)Kindle版 p.270
(4)WIRED VOL.22 (2016年、WIRED編集部) Kindle版、p.113
(5)(6)WIRED VOL.22 (2016年、WIRED編集部) Kindle版、p.117
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