(Photo by:Silver Hage)
恋愛や友人などの人間関係では、近くにいるほうが親しくなりやすく、距離が離れるほど疎遠になる、という心理学的な現象がありますが、
技術者同士の職場のコミュニケーションにおいても、仲間との物理的な距離が離れるほど、コミュニケーションの頻度が減っていくと示したのが、マサチューセッツ工科大学のトーマス・J・アレン氏です。
アレン氏がこのリサーチ結果を示したグラフは「アレン曲線」と呼ばれ、自分から1.8メートル離れた席の相手とのコミュニケーションの頻度は、18メートル離れた席の相手とのコミュニケーションの4倍であり、さらに相手が別の階など視界に入らないほど遠い場所に離れると、コミュニケーションは皆無になることを表しています。
緊密な共同作業をするエンジニアたちのコミュニケーションの頻度を調べた最近の研究でも、同じオフィスにいない相手よりも、同じオフィス内の相手とメールをやり取りする頻度のほうが、4倍も高かったとのことで、「アレン曲線」の発表から40年近くが経過し、インターネットによっていつでもどこでも誰とでもコンタクトを取ることが可能になった今でも、物理的な距離が近いことは、コミュニケーションに有効だと言えるのかもしれません。
↑物理的に近くで仕事することのメリットは未だに大きい(Photo by:Wagner Fontoura)
しかし、一方でオフィスを持たなくてもイノベーションを起こしている企業があることも事実で、例えば、プロジェクトマネジメントツール「Basecamp」を開発し、優秀なエンジニア集団として知られている37シグナルズは、オフィスを持たず、世界30ヶ国、43人の社員が遠隔で勤務しています。
同社の創業者兼CEOであるジェイソン・フリード氏がリモートワークのメリットを綴った「強いチームはオフィスを捨てる」は、世界的ベストセラーとなりましたが、フリード氏は、同じ場所に社員がいることによって雑談によるひらめきの魔法があることを認めながらも、身近にいないからといって、理想の人材を雇わないのは馬鹿げていると考え、物理的な空間を共有することよりも、音声が繋がることや、画面が共有できることのほうが重要だと述べています。
↑強いチームはオフィスを捨てる(Photo by:Jeremy Keith)
日本でも株式会社ソニックガーデンは、「アイルランドで働きたい」という社員の発言がきっかけでリモートワークを導入し、今では社員は働く場所、勤務時間、休日などを自由に決められるシステムを採用しています。
しかし、実際に始めてみると、リモートワーカーとのコミュニケーションの問題はやはり大きく、それを解決するため、気軽な雑談ができる「Remotty」を開発し、社員同士が離れていても一体感と空気感を感じられるようにしたのです。
このツールを使えば、リモートワークでは難しい「ちょっとした雑談」も可能になりますが、それだけではなく、WEBカメラを使って1分ごとにメンバーの顔を撮影する機能もついているため、メンバーがどこにいるのかを自然と共有でき、それがオフィスのような一体感を作り出します。
↑新しい働き方のデメリットはテクノロジーが補填 (Photo by: Rudolf Schuba)
もちろん、コミュニケーションツールさえあれば、仕事がはかどり、プロジェクトが成功するというわけではありません。
ある調査によると、人は幸福を感じると12%一生懸命働くということも報告されていますし、心理学者のショーン・エイカー氏も、幸福な状態であれば、人の脳は格段によく働くのだと、次のように語っています。
「現状へのポジティブさの度合いを引き上げれば、その人の脳は幸福優位性を発揮し始め、ストレス下にある脳よりもずっとよく機能し、活力が増大する。」
↑社員が幸福を感じれば、生産性は自然と上がっていく(Photo by:sima dimitric)
実際に、リモートワークによってポジティブな状態を手に入れている人は多く、リモートワーカーの求職活動を支援する「フレックスジョブズ」のAdrianne Bibby氏は、リモートワーカーの82%は、オフィスワーカーよりもストレスレベルが低いと述べており、その理由として、通勤のストレスがなく、交通費や外食代を節約でき、また、家族との時間など、人生の中で重要な事を優先できることを挙げています。
さらに、かつてオフィスワークをしていた61%の人が、自分の病気は仕事によって引き起こされたと考えていますが、リモートワークを始めた後、健康を取り戻したと感じているそうです。
↑果たして、これが本当に望んだ人生だろうか(Photo by:Bit Boy)
総務省の情報通信白書によると、リモートワーカーの数は2013年の推計では、720万人にも達していると言われていても、働く側の意識には「勤務時間が曖昧になる」、「自宅では集中できない」ということが挙げられているように、リモートワークは非生産的だという推測もありますが、デジタルマーケティングを専門とする会社シングルグレインのCEOであるEric Siu氏によると、リモートワーカーはオフィスワーカーよりも、13%生産性が高いそうです。
実際に、オフィスワーカーの48%が頻繁に同僚から邪魔されていると感じていますし、51%が近くの席の同僚に対しても、直接話しに行かずに、SNSやメールでやりとりしているとのことで、前述のフリード氏も、オフィスワークのほうが生産的ではない理由を次のように語っています。
「ひとりだけの長い一続きの時間にこそ生産性は最も高くなる。このモードに入るには時間がかかるし、邪魔が入るのを避ける必要がある。それはレム睡眠のようなものだ、すぐにレム睡眠に入れるわけではない。まず最初に寝てからレム睡眠への準備が整う。どのような中断があっても最初からやり直しとなる。」
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↑会話などで一度仕事を中断すると、以前の集中力にはすぐ戻れない(Photo by:Tim Regan)
確かにオフィスに人が集まる物理的な距離の近さは、コミュニケーション度を上げ、ヤフーでも「良い決断のためのヒントやひらめきはカフェテリアや廊下での雑談から生まれる」と語られていますが、アイデア次第でいかようにでも問題を解決できる時代では、「物理的に人が集まること」よりも、生産性を上げるのは、「ひらめきが生まれる空間作り」であり、どうすれば各メンバーの脳がよく機能する環境を与えられるかということなのかもしれません。
↑自分の一番心地良いところで仕事する。デメリットは最新のテクノロジーで解決する。(Photo by:Daniel Lobo)
いま活発になされている「オフィスワークかリモートワークか」という問題は、設定自体が間違っており、重要なのは「オフィスワークであろうとリモートワークであろうとどうしたら生産性を高められるのか」ということであり、リモートワークで得られる幸福感が生産性を高め、プロジェクトの成功を促すことは、もはや否定出来ない事実になりつつあるのです。
参考資料
(1) 「小さなチーム、大きな仕事」ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン Kindle p.108-109
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