(Photo by:Themeplus)
いまや現代人にとって欠かせない携帯電話の基礎を作ったフィンランドのNokiaは、「日本のトヨタ」のようにフィンランドの顔となっていた巨大企業で、2006年に世界の携帯シェアの41%を独占してからというもの、2008年までの10年の間に、フィンランドの経済成長の約25%に貢献し、国の研究開発費のうち43%はNokiaに投資され、ピーク時には13万人もの従業員を抱えていました。
しかし、アップルからiPhoneが登場すると、徐々に他社からもシェアを奪われるようになり、「世界最大の携帯端末メーカー」といわれたピークからたった数年後の2014年10月に、本業ともいえる携帯部門をマイクロソフトに売却し、世界を驚かせました。
国民のアイデンティティとまで言われた大企業が、これほどまでにあっさりと栄光を捨てることは日本では考えにくいですが、ノキアの創業から150年の歴史を振り返ってみると、実はとても自然なことで、パルプ工場からはじまったNokiaは、ゴム、ロボティクス、化学、家電、そして通信と、時代の流れに乗って本業を変えることが大得意で、成長分野を捕らえ続けることこそが、Nokiaの実態なのだと言えるのかもしれません。
過去の栄光を捨て、あっさりとマイクロソフトに売却(Photo by:Maurizio Pesce)
Nokiaが大胆にビジネスの転換を決断してきたのは、フィンランドという国の方針によるところも大きく、日本では近年、イノベーションや起業に対する活動が低下傾向にあり、2001年からは起業数と廃業数が逆転していて、国の恩恵があるのは大企業ばかりとの声もありますが、フィンランドにおいては、成長しきった大企業よりも、新しい会社やイノベーションに対して、政府が積極的に介在しています。
フィンランド政府支援の公共機関技術庁は、昨年、将来性のあるベンチャーに135万ドル(約1億6千万)を投資しており、支援を受けた会社の中には、世界No.1の売り上げを誇るモバイルゲームclash of clansや、ヘイ・デイ等をリリースしているsupercell社、世界でシリーズ累計20億回ダウンロードされているゲーム、「アングリーバード」で知られる Rovio社もあげられることから、政府の支援が着実に若い芽を育てていることがわかります。
いつまでも楽しめるゲームを考えるデザイナー集団Supercell社(Photo by:Themeplus)
起業といえば失敗がつきものですが、 失敗に対する捉え方も、フィンランドは日本とは対照的で、日本では失敗した際の社会的信用の低下や多額の負債などがあり、一度なりとも失敗は許されない風潮がありますが、フィンランドでは、失敗は「おめでたい」ことと賞賛され、失敗によって可能性が摘まれることはありません。
大成功したRovio社においても、アングリーバードをリリースして以降、成功までに、実に51本のゲームが失敗し、6年の歳月がかかっていますが、その間、政府による支援が途絶えることはなかったそうです。
ゲームと教育の境目をなくすRovio社(Photo by:Games for Change)
フィンランドで開催されるスタートアップの一大イベントでもあるSLUSH会議の場で、SuperCell創業者イルッカ・パナーネン氏も、以下のように述べています。
「これは冗談で言っているのではありませんが、失敗は楽しいものです。人々は、ゲーム制作に命を捧げ、時には製品が殺されてしまいます 。しかし、我々はその失敗から、沢山のことを学ぶのです。我々は分析し討議します。何が上手く行き、何が足りなかったか、私たちが学んだことを祝うためにシャンパンの栓を開けるのです。」
Nokia自身も、元Nokia社員によるスタートアップを推し進め、政府とともに積極的な支援を行っており、ノキアの看板は無くなっても、成長分野に貪欲な遺伝子は、分裂しながら脈々と受け継がれ、ゲーム業界や次世代携帯の分野を拡大し続けており、Nokiaがなくなったからといって、フィンランドが失敗に憂えることはなく、国民の誇りは廃れることはありません。
フィンランドの失敗を圧倒的に歓迎する文化(Photo by:Jakob Montrasio)
もともと可能性のある新規産業への支援の厚かったフィンランド政府も、一つの大企業に依存することを危険だと認識したことで、さらに積極的にスタートアップ企業のサポートを充実させ、スタートアップ企業を支援するベンチャー・キャピタル・ファンドFinnveraを設立し、600億ユーロ(約8兆円)の年間予算と360名のスタッフを集めて、フィンランドを新たなイノベーションの巣窟に作り変えようとしています。
2010年にフィンランド政府は、専門によって分かれていた学校を「Aalto大学」として統合し、工学、ビジネス、そしてアートが融合した世界最大規模の大学に再構築し、Aalto大学からはヨーロッパ最大の学生企業家集団
「Aaltoes」が生まれ、北欧のシリコンバレーとも呼ばれるEspoo Innovation Gardenの核としてイノベーションを先導しています。
工学、ビジネス、アートが融合したヘルシンキのAalto大学から、ヨーロッパ最大の学生企業家集団が誕生 (Photo by:Aalto Creative Sustainability)
現時点でのフィンランドは、不景気が4年目に入って失業率は17%を記録し、投資をしているIT関連の新しい企業は「幼児」の段階で、まだまだ世界を再度振り向かせるような明るさはありませんが、フィンランドの先進的な教育は世界のトップにランキングされており、元Nokiaのソフトウェア部門副社長のペトリ・ルービネンさんも、Nokiaは過去の伝説ではない、と以下のように話しています。
「フィンランドは700年スウェーデンに支配され、その後109年ロシアのものになり、独立国となってからまだ100年ほどしかたっていない。Nokiaがフィンランドの若者に、グローバル社会での起業のノウハウと自信を与えてくれた。」
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↑フィンランドが世界に通用することはNokiaが証明してくれた (By: Chinwag)
アップルやグーグルといった会社が、一瞬で世界を造り変えてしまう時代には、既存のものが時としてまったく役に立たなくなってしまうことがしばしばありますが、進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものでも、最も頭のいいものでもない。変化に対応で きる生き物だ。」と述べたように、これからの時代は、ただ技術があるとか、品質がいいというだけでは、生き残ることはできないでしょう。
フィンランド人が失敗はビジネスの一部だと認識しているように、ノキアは消え去ったのではなく、ただビジネスの流れに乗って進化しているだけだとすれば、進化形が確立するであろう十数年後のフィンランドが、どのように世界を変えるのか、また指をくわえて見ているだけにならないように、私たちも進化しなければなりません。
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