2016年2月、科学者たちはLIGO(レーザー干渉計重力波天文台)によって、100年前にアインシュタインによって予言されていた重力波を検出することに成功しました。
天文学に関心のない人にとっては、 この発見がどれほど凄いことなのかピンと来ないかもしれませんが、これはノーベル賞級の発見と言われていて、重力波はブラックホールの合体などの現象によって起きる「時空の波」と定義されており、今回の発見により、時空は波のように確かに伸び縮みしていることが証明されました。
プリンストン大学の天文物理学者であるジョー・テイラー氏は、重力波は、これまでの電磁波ではよく観測できなかった天体や天体現象を調べる新しい手法だと述べますが、この重力波で宇宙を見ると、果てしなく広がる宇宙をより遠くまで、そしてこれまで数学上の理論であった目に見えない現象が実際に観測可能になり、まったく違う観点で宇宙を理解できると期待されています。
↑100年間ほど当たり前だった概念が一気に変わり出す
天体学や物理学を初めとする自然科学は、私たちの住む世界や宇宙を観察・測定し、そこに一定の法則を見つけだそうとしてきました。科学者たちは一旦その法則をみつければ、それを方程式で表せるため、人類はそれに基づき、数々のテクノロジーを生み出し、宇宙にロケットを飛ばす偉業まで成し遂げてきたのです。
こうした自然科学に対して、人間の社会や組織を扱う学問である社会科学は、一般的な法則や原則を見出すことは不可能だと考えられ、人間から構成される各社会に普遍的な真理はないとして、それぞれの組織や社会が文化や伝統を作り出してきました。
しかし、ビッグデータの登場によって、これまで大衆が信じて疑わなかった常識や、当たり前のように受け入れられてきた社会のルールが間違っているかもしれないと多くの人が感じ始めていて、MIT教授のアレックス・ペントランド氏も、「私たちが伝統的に抱いてきた人間に対する見解や、社会はどう動くものかということに関する見解の多くが間違っている」と述べています。(1)
↑今までは、社会における法則など、とても見つけられないと考えられてきた
例えば、多くの企業は生産性を上げるために「ムダ」をできるだけなくそうとし、かつては、合理的な経営とは、休憩時間や同僚どうしのおしゃべりをできるだけ少なくすることだと考えられてきました。
これに対し、同氏は、3,000人以上が働くバンク・オブ・アメリカのコールセンターを対象に、数十ギガバイトの行動データを収集、分析した結果、仕事の生産性を左右する最も重要な要素は、従業員同士の交流に費やした時間であることを明らかにしました。(3)
測定によって裏付けられたこの法則にもとづき、それまでバラバラにとっていた従業員の休憩時間をチーム単位でとることにし、休憩時間におしゃべりができるようにしたところ、従業員の職場に対する参加意識は高まり、業務の生産性が向上しており、年間で1,500万ドル(16億5千万円)のコスト削減につながるとされています。
↑収集できるデータの量が今と昔では比べモノにならない
また、あらゆる自然現象の変化はエネルギーが別の形態のエネルギーに変化しても、その総量は変わらないという「エネルギー保存の法則」によって裏付けられますが、ビッグデータによる測定は、それが人間の行動にも当てはまることを裏付けました。
日立製作所の研究開発グループ技師長を務める矢野和雄氏は、人間の腕の動きを計測し、記録できるウエアラブルセンサによって、12人の被験者の動きをそれぞれ4週間、のべ9,000時間にわたって記録しましたが、被験者は有限の資源である「腕の動き」を無意識のうちに調整し、優先度の高い仕事に積極的に振り分けていることがデータによって証明されたのです。
つまり、一般的にわたしたちは自分の意思や計画にもとづいて自分の時間を用いていると考えていますが、人間の行動も例外なく、エネルギー保存の法則の厳しい制約を受けていると言うことになります。(2)
言い換えれば、この法則に反して無理なタスクリストを作って、やみくもに仕事をしても効率が上がらないことは当然ですし、そうできなかったからと言って、自己嫌悪に陥ったりすることも必要なくなります。
↑ただの精神論で、乗り切ろうとしても絶対に上手くいかない
文豪トルストイは自らの経験に基いて「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」と述べましたが、実はビッグデータによる測定によって幸福の形はまさに定義できることが明らかになり始めています。
2014年にウォーウィック大学は、700名の被験者を二つのグループに分け、一つのグループにはコメディ映画とチョコレート、ドリンク、フルーツを提供、もう一つのグループには家族内の不幸について質問した後に、仕事の生産性にどんな変化が生じるかを実験しました。結果としてコメディ映画と食べ物を提供された従業員は生産性が12%増加することが分かったとしています。
これらの研究結果を通じて分かることは、仕事の生産性も、幸福も測定可能であり、そうである以上、そこに一般的な法則を見出すことができるということです。
↑幸福には一つの形しかないが、重要なのはそれが測定可能であること
かつて日本のロックバンド、Mr.Childrenは「終わりなき旅」という曲の中で「生きるためのレシピなんてない」と唄いました。確かに、これまでわたしたちは自分の仕事における満足感や幸福に関して経験則でしか捉えることができないと考え、自分より上の世代の人に尋ねたり、自分の経験を通じてトライ&エラーを繰り返したりしてきました。
しかし、いまやビッグデータがそれを変えようとしています。経済的な効率性と人間の幸福に関する法則、つまり「生きるためのレシピ」が人類史上初めて明らかになろうとしているのです。
↑「生きるためのレシピ」はある!
これまでの学問体系からすると、「社会」という人間から構成される研究対象に、自然科学である「物理学」を持ち込むこと自体、一見すると矛盾のように思えますが、定量的に人々の行動や情報・アイデアの流れを関係づけることができるようになってきており、前述のアレックス・ペントランド氏は、その「社会」と「物理学」を統合し、「ソーシャル物理学」と呼びます。
もっとも、物理法則が不変であるとしても、それについて認識を深めることにより、テクノロジーを生み出し、それらを使って何を成し遂げるかは個々の人に委ねられているのと同じように、ビッグデータが社会や組織の成り立ちやアイデアの流れについて明らかにしても、どう行動するかはわたしたち一人ひとりに委ねられていると言えるでしょう。
次第にビッグデータによって明らかになっている社会や組織に関する法則を、わたしたち一人ひとりも自分の働き方に取り入れるならば、いままで主観的な感覚に過ぎないとされていた幸福が、より確かで安定したものになってくるのかもしれません。
1. アレックス・ペントランド『ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学 』 (2015年、草思社)p.9
2. 矢崎和男『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則 』 (草思社、2014年)Kindle、444
3. アレックス・ペントランド『ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学 』 (草思社、2015年)p.117
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