(Photo by:Moyan Brenn)
JTBが2013年に行った旅行に関する意識調査によると、20代以下の73.1%、30代の64.1%が一人旅をしてみたいと答え、実際に、じゃらんが2015年度に行ったアンケートでも、2014年度に一人旅をした人は2004年の調査開始以来、10年連続で増加し15.9%に達しています。
一人旅の需要が高まっている背景について、「ひとり旅活性化委員会」を主催するフリー・ライターの山田静さんは、「今はSNSがあるので、一人旅の最中でも孤独になりすぎません」と述べていますが、旅のシーンや感動をすぐに共有できるアプリなどのツールがあるために、多くの人が一人旅を孤独なものだと感じなくなっていることがあるようです。
↑若者の約7割が一人旅の願望を持つ(Photo by:Zabara Alexander)
例えば、「Compathy(コンパシー)」というアプリを使えば、写真をアップするだけで、GPS機能により、旅のルートや時間の経過など、旅のすべてのプロセスを一つのストーリー「ログブック」にまとめることができ、旅の始まりから終わりまでの足取りをSNSによって、世界中の人々と共有することができます。
しかし、近年の傾向としてはサイバー空間で共有できる感動には限界があり、やはり物理的に一緒にいる人とのコミュニケーションに勝るものはないと気づいた人たちは、旅先で人とリアルに関わり、「一期一会」の縁を求めるようになっています。
↑バーチャル上でのやり取りが増えれば増えるほど、対面でのコミュニケーション価値は上がる(Photo by:Garry Knight)
以前から、「コンチキツアー」という、世界中から集まった18歳から35歳の旅行好きの若者たちと一緒にデラックスバスで移動しながら、旅を楽しむ旅行企画がありますが、「コン(continental)」とは大陸、「チキ(TIKI)」とはマオリ族の言葉で「仲間」を意味し、普段の生活の中では絶対に知り合えないような人たちと、時間を共有できるということで多くの支持を受けてきました。
最近では、ウェブ上でコンチキツアーのような旅を個人レベルで企画し、実現できるサービスが目覚しく成長していますが、こうした需要に関して、マーケティングアナリストの三浦展氏も自著「第四の消費」の中で、個人でモノを消費することだけでは満足できなくなった人々は、顔の見えるコミュニケーションを重視するようになると分析し、次のように述べています。
「何かをすることで人と知り合えるか、交流できるか、というソーシャルなところに価値が置かれる。」(1)
↑対面で考え方を共有する「これは経営も旅も変わらない。」(Photo by:gosheshe)
旅のアイデアのある人が提案し、その企画に参加したい人たちは応募することができるサービスを提供する「トリッピース」というプラットフォームでは、地元の人たちが集まるようなイベントから、海外を旅するようなものまでプラン化され、実現できます。
また、旅行会社の「クラブツーリズム」もプロダクトツアーを企画する一方で、「顧客参加型」のマーケティングシステムを構築しており、「どうしても実現したい」というこだわりを持つ顧客がクラブツーリズムに企画を提案し、フレンドリースタッフと呼ばれる社員が最初から最後までかかわり、一緒にツアーを創りあげるサービスを提供しています。
こういったサービスによって、知り合いの同行者がいなければ、一人旅で達成するしかなかったことが、嗜好や趣味を同じくする人たちが集まって実現することが簡単になっただけではなく、治安が悪くて不安だったり、免許がなかったりといった理由で、やりたくても一人ではできなかったことを実現できたというコメントも見られます。
↑ツアー会社が作った旅行に参加する時代から、自分たちでツアーを作り上げる時代へ(Photo by:Junpei Abe)
さらに、予定調和の旅では飽きたらない人たちは、旅の同行者を求めるのではなく、訪れる旅の先々での新しい縁や繋がりを得ることを求め始めています。
世界中で12万の都市に住む900万人以上のユーザーが登録している「カウチサーフィン(Couch Surfing)」というプラットフォームを使えば、初めて行く場所であっても、様々な条件を入力し、無料で宿泊場所を提供してくれるホストを見つけることができます。
友情と相互理解を深めることが目的のボランティア団体が運営している「ビーウェルカム(beWelcome)」という無料のサービスのメンバーは、宿泊場所を交換したり、お世話になったら次回は自分が地元の観光案内などを引き受けたりと、金銭のやり取りではなく、現地での人との交流に価値を置いています。
↑旅をすることの一番の価値は、金銭的価値以外の何か (Photo by:Barnacles Budget Accommodation)
旅先での出会いをさらに意義あるものにするべく、オーストラリアのAustern internationalという会社では学生たちがシンガポールや中国での人脈を作れるように、リーダーシップの研修プログラムを企画しました。
創設者のジェイミー・リー氏はこの企画を「グローバル市場でより巨大なビジネスに参加したいと願っている意欲的で野心的な学生にとってのコンチキツアー」と位置づけ、学生が人脈を求める意義を説き、次のように問いかけます。
「もし技術も職種も同じ2人の学生がやってきたとします。一人は国内での職歴しかなく、もう一人は様々な場所での経験があるとしたら、どちらを雇いますか?」
↑見えない感覚は、今後一番の付加価値 (Photo by:AFS-USA Intercultural Programs)
14世紀の旅行家で、「史上最も偉大な旅行家」のひとりと言われているイブン・バットゥータは、30年かけて「大旅行記」を記しましたが、現代でも旅行ブログに旅の途上で見た美しい景色や、食べたことがないようなご当地グルメを記録したいというのは、時代や国籍を超えた人間の普遍的な渇望と言えるかもしれません。しかし、それが何らの共感を生み出さないならば、旅行者の発信も非常に空虚なものになってしまいます。結局、旅は「他者」があって初めて完成するものなのです。
そして、他者とのリアルなコミュニケーションを求める限り、私たちは否応なしに自分とも向き合わざるを得なくなり、いくら旅に出かけたとしても、日常から完全に自分を切り離すことはできません。その時、私たちは旅とは日常の延長線上に捉えるべきものであり、日常も旅も繋がっていることに気付くのです。
前述の「Compathy」を生み出したワンダーラスト社の代表取締役社長の堀江健太郎は、ミッションは「旅を通じて心の国境を無くす」ことだと話しますが、これからの旅は、訪れる場所ごとに新たな「人」との縁を得て、それを生かしていくことが最も大きな価値になっていくのかもしれません。
参考:「じゃらん宿泊調査2015」、「JTB 一人旅に関する調査2013年」
(1)「第四の消費 つながりを生み出す社会へ」(朝日新書)三浦展著 P162
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