アメリカは「格差社会」と言われているように、高所得者層と低所得者層の間には明確な差というものがあり、低所得者層が多く居住している貧困地域では、本来子供が安心して遊ぶ場所であるはずの公園や広場が犯罪の温床となっていることも多く、貧困層の子供たちは外で思い切り走り回って遊ぶことすらできずにいます。
アメリカの全国犯罪被害者調査によれば、一世帯収入が年間で7,500ドル以下の場合は、75,000ドル以上の場合と比べると、犯罪に巻き込まれる確率は3倍以上も高くなっており、実際、外で遊んでいる最中に事件に巻き込まれて命を落とす子供は少なくありません。
↑遊び盛りの子供たちが事件に巻き込まれ犠牲者となる
「もし今日子供たちを外に出したら、撃たれるかもしれない」と、外で子供を遊ばせることに不安を感じる親も多く、外で安心して遊べる場所がないために、家の中で1日に7時間以上も電子機器と向き合う子供もおり、アメリカ疾病予防管理センターの調査によれば、子供が電子機器と向き合う時間は自転車に乗っている時間の6倍以上だと言われています。(1)
このような、子供たちの遊び場に関する問題を解決しようと、1996年、ダレル・ハモンド氏は全米各地に公園を造ることで子供たちに遊び場を提供する非営利団体「カブーム(KaBoom)!」を創立しました。
ハモンド氏自身、子供の頃は養護施設で育っており、その施設には1200エーカー(東京ドーム約104個分の広さ)の敷地内に、池、運動場、球技場、そして木登りのできる木が何百本と生えていたため、遊ぶ環境としては最高に恵まれた場所だったそうで、自分が育ったような環境を現代の子供たちにも提供したいと思いカブーム創立に至ったのです。
↑子供が電子機器と向き合う時間は、自転車の6倍以上
カブームは、スポンサーとなってくれる企業からお金をもらって公園を造るといった単純なプロジェクトを目指しておらず、スポンサー企業に加え、地域住民や地域のコミュニティセンターとパートナーとなり、「自分たちの公園である」ということを意識してもらうためにも、地域住民がプロジェクトに密着しながら自主的に公園造りに携わってもらうことを目標としています。
子供たちには、どんな公園が欲しいか・どんな遊具があれば嬉しいかを絵に描いてもらい、デザインという重要な役割を子供たちに担ってもらうため、プロジェクト参加は子供たちも例外ではありません。
↑子供も自分たちが遊ぶことになる公園造りに参加する
カブーム自体はマネージャーという立場でプロジェクト全体をサポートしていくだけで、公園造りに必要な資材や道具などの準備は、地域住民とコミュニティセンターが数ヵ月間かけて自分たちで周囲の協力を呼びかけながら行います。
そして、ある1日を「建設の日」と決めて、その日1日だけで一気に公園を完成させていき、ついに子供たちがデザインした公園が、カブームの団体名になっているように「ドッカーン(KaBoom)」と誕生するのです。
↑子供たちが描いていた夢の公園が「建設の日」を経て誕生する
プロジェクトには多くの地域住民が参加し、地域コミュニティ全体が協力し合って行われるのですが、例えば、フロリダ州オーランドにある、年収4,000~5,000ドルの低所得者たちが住む「ウィンザーコーヴ」と呼ばれるエリアで行ったプロジェクトでは、このエリア近辺のスーパーマーケット3店舗が4,000本のペットボトル水とボランティア230人分の朝食と昼食を、社会奉仕団体であるロータリークラブは食事準備の際の人材を提供してくれました。(2)
はじめは協力することに対して消極的だった人も、ボランティアたちへいくらかの水と食べ物を寄付したり、「建設の日」にはボランティアとして公園造りを手伝ったりしているうちに気持ちも変化し、最終的には自分の店に公園の設計図を飾るため、設計図のコピーが欲しいと依頼してきたと言いますから、公園造りに自らの手が加わると「自分たちの公園である」という愛着が湧くというハモンド氏の主張は事実なのでしょう。
↑プロジェクトに参加しているうち、公園への愛着が湧いてくる
貧困地域に住む人々は経済的・家庭的な問題から学校に通うことができなかったり、家庭内での会話が極端に少ないケースがあり、人との関係を構築するということに慣れていない人も少なくありません。
そのため、同じ地域に住んでいるにも関わらず対立し合っていることもあるのですが、「子供のための公園造り」という共通の目的を持ち始めると結束力が生まれ、カブームのプロジェクトは地域住民の関係を改善することも可能なのです。
↑貧困地域では近隣住民同士の繋がりが薄く、対立し合っていることも多い
カナダのウォータールー大学で産業心理学を専門としているジョン・ミケーラ教授は、明確な目標を持っているグループほど、ハイパフォーマンスで結束力の強いチームに成長することが可能で、さらに最終的な目標を達成するための小さな目標を立てることで、具体的に何をすれば良いのかが明確になるため、行動しやすくなり、より一層結束力の強いチームになるのだと報告しています。
「公園を造る」ということを最終的な目標としているカブームの公園造りプロジェクトについても、参加者全員が最終目標に向けて、人材や資材の確保など小さな目標を立てて取り組んでいるからこそ、地域住民の関係性は徐々に改善し、協力に消極的だった人も積極的になるなど、コミュニティの団結力も日々強まっていったのでしょう。
↑カブームのプロジェクトが街全体の雰囲気を変えていく
大勢の大人たちが1つの共通の目標に向かって歩む姿は、子供たちにとっても良い影響を与えるのだと、ハモンド氏は次のように述べています。
「公園造りはお父さんもお母さんも近所の人たちも、みんなが集まり一緒になって進められていきます。この大人たちの姿は子供たちの成長にとって、ものすごく意義のあることなのです。幼い子供はすぐには理解することはできないでしょう。しかし、子供たちの記憶には残り続け、大人になるにつれて、この公園造りの意味や重要性といったものを理解する時が必ず来るのです。」
↑このプロジェクトは子供たちに公園を与えるだけでなく、協力し合うことの大切さも教えてくれる
カブームの創立から20年、さまざまな地域での支援を続けてきた結果、現在までに16,300もの公園が造られ、参加してくれたボランティア数は100万人を超えました。
カブームとスポンサー企業が組んで公園を造るのではなく、子供を含めた地域住民たちが自主性を持って行動を起こすことで完成した公園は地域住民 “自作の公園” になり、このことが、公園が長期にわたり大切に維持されることにも繋がるのだと、カブームのスタッフは喜んでいます。
↑地域住民が自主的に行動することもカブームの目標のひとつ
スマートフォン決済サービスを提供する「コイニー株式会社」は、海外展開を視野に入れているため、初期の頃から海外の人材を確保し、グローバルなチーム体制を作りました。各国の情報を持つメンバーがいることで自然と海外の情報も集まり、サービスの課題に対する解決法も豊富なチームになったのですが、日本語のレベルや仕事の進め方などはそれぞれ差があるため従業員同士のズレが目立っていたと言います。
そこで、コミュニケーションの問題に関してはイラストを使った仕様書を作成するなどイラストを活用することを提案し、仕事を進めていくスケジュールについては、今までのように最終ゴールに向かうまでの一つ一つの細かい仕事に対しては、締め切り日時をしっかり設けることはせず、担当者にスケジュール管理や進行を任せるようにしたのです。
ただ一つ忘れずに行っていたことは、最終ゴールに到達しなければならない日時の共有でした。それ以外の部分では、従業員がそれぞれやりやすいように社内のルールや仕事の進め方を変えていったところ、従業員のパフォーマンスは格段に上がったほか、自由に開発できる社風が人気を呼び、外国人エンジニアの応募が増え、従業員のパフォーマンスが会社の業績にも繋がったことで取り扱い額は想定の2倍以上になっていると言います。
↑やり方はさまざまでも、従業員全員のゴールは同じ
代表取締役の佐俣奈緒子氏は、チーム力に言葉や文化の違いは影響しないのだと指摘し、組織にとって本当に必要なことを次のように話しました。
「言葉や文化の違いは実は大した問題ではない。仕様書の言葉が違っても調べれば読めるし、決まった時間に会社に来なくても結果的にゴールに向かって前進していればまったく問題ない。何を最優先させるかと言えば、ゴールへ向かっていることが最も大事です。」
↑時間どおりに出社することよりも大事なのは、日々ゴールに向かって進んでいること
ハモンド氏がカブームの創立を決意したのは、ワシントンポストに掲載されていた、4歳と2歳の幼い子供が道端に捨てられていた車の中で遊んでいた時に窒息死したという事故の記事を読んだことがきっかけでした。この2人の子供たちは遊ぶ場所がないために、この壊れた車内で遊んでいたのです。
彼の決意はたくさんの大人たちを動かし、各地域に公園を造り上げてきましたが、それと同時に地域コミュニティの環境も変えることに成功しており、ハモンド氏は、それぞれの地域の父親や母親が協力し合う姿から感じたことを次のように述べています。(3)
「少数の偉大な組織がこの問題のために力を合わせれば、社会に大きく貢献する活動を実行できるはずです。」
人はみな異なった意思や考えを持つ生き物であるため、誰かと対立してしまうことは避けられませんが、どんなに対立していても一度同じ目標を持てば、たちまち同志となり、いつしかそれは目標を実現することのできる結束力の強いチームへと成長していくものなのです。
1. KoBOOM – Play matters for all kids
2. ダレル・ハモンド 「カブーム!100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト」 (2012年、英知出版) p11
3. ダレル・ハモンド 「カブーム!100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト」 (2012年、英知出版) p17-18
4. ダレル・ハモンド 「カブーム!100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト」 (2012年、英知出版) p311
本ブログは、Git / Subversionのクラウド型ホスティングサービス「tracpath(トラックパス)」を提供している株式会社オープングルーヴが運営しています。
エンタープライズ向け Git / Subversion 導入や DevOps による開発の効率化を検討している法人様必見!
「tracpath(トラックパス)」は、企業内の情報システム部門や、ソフトウェア開発・アプリケーション開発チームに対して、開発の効率化を支援し、品質向上を実現します。
さらに、システム運用の効率化・自動化支援サービスも提供しています。
”つくる情熱を支えるサービス”を提供し、まるで専属のインフラエンジニアのように、あなたのチームを支えていきます。
No Comments