第45代米大統領の座を巡って、不動産王ドナルド・トランプ氏が共和党から立候補し、指名獲得を確実にしましたが、2016年の大統領選を快走するトランプ氏を巡って注目されているのは、マスコミをはじめとする世論の批判にも負けない彼の人気ではないでしょうか。
保守系のメディア調査機関「メディア・リサーチ・センター」が、三大ネットワーク(ABC、CBS、NBCニュース)の夜のニュースで、共和党の各候補者がどれだけの時間、報道されたかを調査した結果によれば、トランプ氏は共和党の候補者を扱った時間ランキングでは常にトップを維持し、2015年1月から7月は36.6%、8月から10月では56.6%と、他の候補者を圧倒的な差で突き放しています。(1)
↑トランプ氏の報道は候補者の中でもダントツ
トランプ氏はビジネスでの成功や私生活を通じて、これまでも絶えずマスコミを賑わせてきており、メディアをうまく使うことができれば、自身の宣伝になることをよく理解し、今回の大統領選においても、あえて「暴言」と批判される発言をすることで注目を集め、支持を募っているようにも見受けられますが、トランプ氏の発言に注目を寄せたのは一般市民やマスコミだけではありません。
2015年12月と2016年3月にハッカー集団アノニマスが、トランプ氏の思想はアメリカ国民にとってだけでなく、世界の人々にとっても問題があるとして、ユーチューブを通じてビデオメッセージを送り、全面戦争と称してトランプ氏が運営するホームページのハッキングを試みました。
↑マスコミを上手く煽ることによって、また別の人の心も煽ってしまう
アノニマスによるサイバー攻撃には、標的となるコンピュータに対して複数のマシンから大量の処理負荷を与えることで、サービスを機能停止状態へ追い込むDDoS攻撃や、アプリケーションの脆弱性を活用して情報を抜き取るSQLインジェクションなどを使用しており、多くの有志を募って攻撃をかけたりしますが、既に対策も行われ、ほとんどの攻撃が失敗に終わっています。ネット上で1アカウント63ドル程度で購入可能なソフトを用いた手法に頼っていたりしていることからも、高度なハッカー攻撃を行っているわけではありません。
アノニマスとして活動している人数は正確に把握することは困難で、彼らは日本の2ちゃんねるを模して作られた4chanという英語の匿名性の掲示サイトの「/b/」というボードを使用し、仲間を集めています。
アノニマス(Anonymous)とは、英語で「匿名」という意味を表しており、彼らは「匿名」という隠れ蓑を使うことで、現実の世界では声を発することが出来なかった人々が、同じ意見を持った人々が集うことで力をつけ、一致団結して自分たちの主張を声高らかに唱え始めます。
↑一人一人の力も技術もそれほど大したことはないが、「匿名」が一致団結することで力を発揮する
同じ意見の人々が容易に語り合える場をインターネットが提供したことで、人々は積極的にネット上で見知らぬ人々とコミュニケーションを取るようになりましたが、知らない者同士が接点を持つことによって、「炎上」など様々な騒動も起きています。(2)
2013年、日本ではコンビニやレストランの従業員が冷蔵庫の中に入った写真をツイッターに投稿し、数多くの炎上のニュースが飛び交ったことを記憶している人も多いと思いますが、炎上に加担した人々は、「正義」という名の大義名分を振りかざし、群衆のネガティブコメントをさらに引き出すべく、ネットの各所から情報を引っ張り出し、標的となった人を攻め続け、彼らはこれを「祭り」と呼び、娯楽の一つとして楽しみます。(3)
↑仕掛ける側の方からすれば、一種の祭りごと
アノニマスが行うハッカー行為も、娯楽として行っている部分が多く、彼らは仲間にいかに「笑い」を提供することができるかを常に考え、世の中の人々を怖がらせることに喜びを感じており、2008年に宗教団体サイエントロジーをハッキングした際、信者や人類にとって良いことをしていると述べ、更に「わたしたちの笑いにとっても良いことなのだ」と、ハッキングを面白い「いたずら」の一つととらえています。(4)
これは、アノニマスに限らず、かつてワールド・オブ・ヘルの名で知られた10代を中心としたハッカー集団も、現実の世界でのうっぷんを晴らすべく仮想世界に没頭し、「大物だってハッキングされることを見せてやろう」と、相手が誰であれハッキングすることが可能であり、ハッキングできないものは何もないと、自分たちの能力を世の中に認めさせようとしました。(5)
ネット上の炎上が恐ろしいのは、ひとりひとりの悪意は微量でも、それが集まって、大きな憎悪として対象にぶつけられたときではないでしょうか。(6)
↑現実の世界でのうっぷんを晴らすために、仮想世界に没頭する
ホワイトハウス特派員として過去50年間活躍したヘレン・トーマス氏は、専門職としてのジャーナリズムが衰退してきており、「今は、ノートパソコンを持っている人なら誰でもジャーナリストを名乗れますし、携帯電話を持っている人なら誰でも写真家を名乗れます。」と、今までは受け手でしかなかった消費者が、積極的にメディア活動に参加してきていることを危惧しています。(7)
2016年2月、「保育園落ちた日本死ね!」と保育所に子どもを入所させることが出来なかった怒りをブログに書き込んだ母親に対し、ネット上では深刻な待機児童問題に対して賛否両論が繰り広げられ、国会前で保育園増設などを求める抗議活動にまで発展し、共産党議員が「当事者」として参加する事態になりました。
↑知識なんかほとんどなくても、パソコンさえあれば、ジャーナリストを名乗れる
メディアの大衆化は制作と消費の在り方に風穴を開けたと言っても過言ではなく、報道機関が事実を把握していると考えるアメリカ人の割合は、1985年の55%から現在は29%にまで落ち込んでいるそうで、人々、特に若者にとっては、ブログ、ツイッター、フェイスブックといったツールからの情報の方がずっと信頼できるものになりつつあるようです。(8)
第45代大統領の座をトランプ氏とともに狙って選挙活動を行っているヒラリー・クリントン国務長官は、2010年1月、ジョージ・ワシントン大学で「インターネットの自由」について演説を行い、以下のように語っています。
「あらゆる意味で、情報がこれほど自由だったことは、かつてありません。こんなにも多くのアイデアをこんなにも多くの人々に伝えるのに、こんなにも多くの方法があったことなど、歴史上初めてのことなのです。(中略)インターネットは、全ての人々が持つ力と可能性を、最大限に引き出してくれるネットワークだと言えます。その中でも、表現の自由は一番大きなものでしょう。今やこれは、人々が広場に出かけていって政府への意見を話し合うだけのような、単純なものではなくなっています。」(9)
↑いい意味でも悪い意味でも、これだけ情報が自由だった時代は今までにない
インターネット上では、私たちは名前を出さずとも様々な方法を使用して情報を交換し合い、自分の意見を発信することができるようになりましたが、用いる手段の良し悪しは別として、これからはこうした手段を用いることで、直接世論や政治に影響を与えていく時代になったのかもしれません。
参考書籍)
1.あえば直道『トランプ革命』(双葉社 、2016)Kindle pp.1117-1146
2.中川 淳一郎『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』(宝島社 、2010)pp12-14
3.中川 淳一郎『ウェブを炎上させるイタい人たち-面妖なネット原理主義者の「いなし方」』(宝島社 、2010)pp26-27
4.パーミー・オルソン『我々はアノニマス 天才ハッカー集団の正体とサイバー攻撃の内幕』(ヒカルランド 、2013)p.104
5.ダン・ヴァートン『リトル・ハッカー 「ハッカー」になった子供たち』(翔泳社、2003年)p.236
6.イケダハヤト『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか~年500万円稼ぐプロブロガーの仕事術~』(光文社 、2014)Kindle p.303
7.ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ『マクロウィキノミクス フラット化、オープン化、ネットワーク化する社会をいかに生きるか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 、2013)Kindle pp.4795
8.ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ『マクロウィキノミクス フラット化、オープン化、ネットワーク化する社会をいかに生きるか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 、2013)Kindle p.4880
9.ミカ・L・シフリー『ウィキリークス革命―透視される世界』(柏書房 、2011)pp.155-156
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