アメリカ、ミシガン州にオフィスを構える「メンロー・イノベーションズ社」は医療や健康関連の企業向けにソフトウェアの開発を手がける一般企業ですが、“働く喜び”の追求を経営の柱に成長してきた会社で、2001年の創業以来黒字経営を維持しており、現在では米国で最も幸せな職場と言われています。
米国で最も幸せなこの職場を一目見ようと世界中から人々が訪れ、2012年だけで241団体、およそ2,200人の訪間者を迎え入れてきました。
世界の一流企業が集うニューヨークやIT関連企業の一大拠点となっているシリコンバレーなどとは違い、アメリカの中でも決して目立たないミシガン州で立体駐車場の地下スペースをオフィスとして利用しているメンロー・イノベーションズ社に今、人々の注目は集まっているのです。
↑地味で目立たない企業が「米国で最も幸せな職場」として世界から注目されている
このような企業に成長した背景には、創業者兼CEOであるリチャード・シェリダン氏が考案した上司が存在しない組織づくり、従業員同士の信頼性を高めるための業務内容や給料の開示、そして仕切りのない地下駐車場をオフィスにした賑やかな職場にするなどのルールがあります。
社員全員が仕事を楽しみながら日々成果を出し、長続きするビジネスこそ、ジェリダン氏が実現したかった企業の姿であり、この理想をより現実に近づけるため、彼はさらに、常に二人一組で仕事を行う「ペアリング・システム」を採用しました。
↑二人一組で業務を行う「ペアリング・システム」が日々の業務を楽しいものに変えている
このペアリング・システムとは毎週異なる相手とペアを組み、それをローテーションするシステムで、そもそもの始まりはプログラミング言語Javaの教育のために外部から迎え入れたプログラマーと社員でペアを作り、そのペアを日替わりで組み替えたトレーニングでした。
2000年頃、Javaはアメリカ国内で流行しているプログラムだったこともあり、社員が強い関心を示していたのに加え、1対1の集中トレーニングでしたから、社員たちはたちまち自分たちの技術がどんどん磨かれていくことを実感し、その後、毎週違う誰かとペアを組むというシステムがスムーズに取り入れられることになったのです。
↑1対1で学べばどんな知識や技術も身に付きやすい
ペアリング・システムによってすべての人の知識や技術が社内全体に拡散され、また、相手に説明することで自分自身でも理解を深めていくことができますから、ペア組み替えの継続が社員全員を頼れる専門家または教師へと変貌させていきました。
このような日々新しいことを着実に学び続けることができるシステムの導入で、過去、世界最先端のガンとAIDSの研究装置を開発し、包括的な臓器移植情報システムの構築にも関わってきており、社員たちはペアの組み替えで新しい技術や知識を学んでいく事に対し、次のように述べています。(1)
「すごく楽しいんです。働いているように感じないんですよ。その上給料までもらっていいものか、ちょっとわからなくなって。」
↑自分がどんどん成長し、社会に貢献していくことは最高の喜び
ペアリング・システムのメリットは集中して学べること以外に、メンバー全員が均等に豊富な知識を持っていれば、病気や休養などで誰か一人が欠けたとしても誰でもその穴を埋めることも可能で、欠けた分の負荷が誰か一人に集中してかかることもありません。
また、毎週異なる相手とペアを組むことは1日8時間×5日間の約40時間一緒に過ごすわけですから、仕事以外の話をする機会も増え、雑談を通して相手の趣味や性格、また家庭環境のことをより深く知ることができると言います。
個人として向き合うことで“仕事だけの関係”だけで終わることはなく、相手の性格を深く知ったら好感度がアップしたということもあるように社内の雰囲気向上にも貢献し、お互いの家族のことまで知っているからこそ、いざという時には積極的にサポートし合う気持ちが湧き起こってくるのです。
実際、長い間メンロー・イノベーションズ社でソフトウェア開発者として働いている女性社員が、父親がガンと診断されたことで家族全体をサポートしなければならなくなった時、社員全員が彼女をサポートしようと、オフィスで起きていることを随時報告するなど、彼女がスムーズに復帰できるよう支援していました。(2)
↑社員同士プライベートなことも気軽に話せる関係が企業の生産性に繋がっている
日本にも、異世代の人たちのコミュニケーション活発化を目的として、このペアリング・システムに似た制度を取り入れながら街づくりに取り組んでいる地域があり、岐阜県との県境にほど近い福井県池田町では、住民によって結成されたNPO団体で、2人組のペアで生ごみ回収を行っています。
このNPO団体では畜産農家と連携して生ごみを堆肥に変えて農家に還元し、農家が栽培した農作物をアンテナショップで販売する取り組みを実施しているのですが、この生ごみ回収作業は毎回ペアが異なるようにルール化されていて、あるときは若い女性と高齢の男性、またある時は若い男性と高齢の女性などといった、普段はあまり関わり合う機会のない者同士でペアになるよう工夫が施されています。(3)
このような仕組みがあることで、普段の生活では知り合うことのない人とも接点ができますから、知り合いや馴染みの地域住民が増えコミュニケーションは活発化、繋がりの強い街づくりに貢献し、個人個人が密にコミュニケーションを取っていくことで街全体のコミュニケーションも円滑になり、その結果、地域全体の繋がりが強いものになっているのでしょう。
↑普段は出会う機会のない人との接点ができることで知り合いが増え、住民同士のコミュニケーションが活発になる
ペアの組み替えでお互いの繋がりが密になる他、国家安全運輸委員会によれば、航空機の場合だと操縦士と副操縦士の2人が同じ者同士で何度もペアになってしまうとマンネリ化し危険度が増してしまうということが報告されていて、ペアを頻繁に組み替えることで、前回のペアとは解決できなかった問題を解決することができるとも言われています。
例えばメンロー・イノベーションズ社の場合、たまたま音声認識ソフトウェアの有名企業に勤めた経験のあるAさんとペアを組んだことで、ちょうどその頃、長い付き合いのある顧客から音声認識ソフトウェアについての知識を求められていたBさんの悩みが解決したことがありました。
これも、ペアとなったAさんとBさんの二人が何気なく交わしていた会話からAさんが音声認識ソフトウェアの知識を持っていることが判明したために起きた“偶然”であり、毎回同じ相手ではなく異なった相手と協力することで運命的にある日突然、抱えていた問題が解決されることもあるのです。
↑ペアが頻繁に変わるからこそ新しいアイデアが生まれ、解決できる問題がある
ペアを1週間毎に組み替えていくことは、また一から時間をかけて新しい相手のことを知らなければなりませんし、同じことを説明しなければならない場合も出てくるため、一見すると非効率的に感じるかもしれません。
しかし、それと同時に新しい知識を増やすチャンスでもあり、また、相手への説明で自分の中の理解を深めるチャンスでもあるため、長期的に見れば自分自身、さらに企業の飛躍的な成長をサポートしてくれるシステムであると言えるでしょう。
それぞれがチーム全員と密にコミュニケーションを取るペアリング・システムは、チーム全体を強いものにしていく画期的なシステムであることは間違いなさそうです。
1. リチャード・シェリダン 「ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント」 (2016年、翔泳社) p31
2. リチャード・シェリダン 「ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント」 (2016年、翔泳社) p231
3. 「ローカル志向の時代 働き方、産業、経済を考えるヒント」 (2015年、光文社) Kindle 1652
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