日本の人口の半数以上が三大都市圏に住んでいて、90パーセント以上の人は都市といわれる地域に住んでいるなど、現在日本では全体的な特徴としてすでに人口が集中している都市部にさらに人が集まる流れにあります。(1)
これまでのまちづくりでは、便利な暮らしを手に入れるか、お金が儲かるかということが第一の基準とされて、狭い道路を潰して広くてまっすぐな道路を作り、道路脇の木造住宅を壊してできた広大なスペースに高層マンションを建てるなどといった再開発を行ったことで多くのまちは個性を失い、どこへ行ってもあまり代わり映えのしない街並みばかりになってしまいました。
2000年以降には都心部で急速なタワーマンションの建設が進み、郊外の住宅団地の周辺に巨大なショッピングモールが作られるなど、本来どのようなまちに住みたいかは人それぞれ意見が分かれるはずなのに、都心であれ郊外であれ、日本ではこうした画一化されたまちが今もどんどん量産され続けているのです。
↑どこの駅へ行っても代わり映えしない街並みが並ぶ日本
都市に人口が集中するというのは日本に限らず世界共通の傾向で、これから世界の経済発展が進んでいくと、人間は今後ますます都市に住むようになるだろうといった予測がされています。
そんな中、私たちはマスコミで紹介される利便性や土地の価格などで測られる「住みたい街ランキング」などといった指標は持っていても、どこに住めば自分が心から満足できて自分らしい暮らしができるのか分かっているという人は少ないのではないでしょうか。
不動産ポータルサイトを運営する株式会社ネクストの内部組織であるHOME’S総研は2015年に『Sensous City[官能都市]ー身体で経験する都市:センシュアス・シティ・ランキング』という名前のレポートを発表し、五感を使って人間の生身で都市を評価してみようという取り組みを行っています。
この調査では、センシュアスな都市の第1位は2位以下に大差をつけて「東京都文京区」が選ばれていて、他のランキングで文京区が1位になることは少ないと思いますが、江戸の下町情緒が残る商店街は歩いていてとにかく楽しく、湯島天神などをはじめとする寺社仏閣が数多く存在するこのまちは「五感で感じる」ことができるエリアなのです。(2)
↑ワインの色や香り、味わいを楽しむように五感でまちを”感じる”
そんななか北海道のほぼ中央に位置する東川町は「ライフスタイルのまち」として全国的な注目を集めていて、東川町は今、国内外からの移住者が増え、人口は1994年3月の6973人から2015年12月の8105人にまで増え約20年間で14パーセントもの人が増えました。
「鉄道・国道・上水道の3つの道がない」と言われる東川町は、一見生活に適さず何もない“ふつう”の田舎町という印象を受けますが、街を歩き、人と話し、カフェでコーヒーを飲み、セレクトショップを訪れると生活文化の質の高さに驚かずにはいられません。
この街には、60以上の個性的な小さな店があり、店主たちはみな、経済価値だけを重視するのではなく生活価値をも重視した、「Life(暮らし)」の中に「Work(仕事)」を持つというライフスタイルを目指しています。
↑なにもないのに東京にはない豊かさがある
そんな東川町で飲食店「ノマド」を経営している小畑吾郎さんは、営業時間を12時オープンということだけ決めていて、食材がなくなり次第お店はクローズ、しかも定休日は「平日のどこか」と決めているそうです。町の人も、小畑さんのペースを理解していて、お店が開いていないかもしれないことを前提に、ノマドを訪れています。
「最初は営業時間を決めていたけど、やめました。お客さんの波が激しくて、それに合わせて食材を常備するのが難しかった」と小畑さんは言いますが、こうしたゆるさがノマドの魅力の一つにもなっているのです。(3)
また、新しいソックスブランドYAMAtuneを立ち上げた、老舗ニットメーカー「ヤマツネ」大雪店店長の横山昌和さんはブランドの知名度を上げるために東川で起業しようと決意したそうですが、その理由に地元の山岳ガイドの存在を挙げて、次のように語っています。
「彼らは山を愛し、地元に根をはっている。日々お客さんの安全や命を背負って山に入り、冬は-30℃にもなる過酷な環境に立ち向かいます。東川には“ホンモノ”の環境があり、“ホンモノ”の人がいた。そういう東川で自分たちのブランドを育てたいと思ったんです。」
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↑見据えている目先の売り上げよりももっと本質的なところ
東川は農家も特徴的で、最近は補助金をもらえる家畜の飼育米や加工米ではなく、生産調整の廃止を見据えて主食米で勝負していくというスタンスを打ち出していて、農業の危機というよりも、自立した農業を行うための好機と捉えて本当に品質の高い米作りをするために努力を惜しんでいません。
自然や感性への高いこだわりがある人々が地域で生活することで、センスの良いユニークな店舗やビジネスが展開され、その結果として東川は、生業として成り立たせている人が多く存在します。
↑「1年1作。種を蒔き、苗を管理し、自然の中で作物と真剣に向き合う。そこには、お金に変えられないやりがいがあります。」(5)
東川町のように生活者のスタイルを重視して街づくりに成功した例に宇都宮の「もみじ通り」がありますが、このもみじ通りを活性化するきっかけとなったのは、2010年にもみじ通りにオフィスを移転した建築家であり、不動産業も営む塩田大成さんです。
塩田さんはもみじ通りに移り住んでから、近くに飲食店が欲しいと思って友人の中から飲食店を経営したい人を探し出すと、物件の貸し出しを渋る地元の人々を数ヶ月かけて説得しカフェをオープンさせてしまいました。その後も雑貨店やドーナツ屋、総菜屋などの出店が次々と決まり、気づいてみれば元々ほとんどなにもなかった場所に7年間で17店もの新しいお店がオープンしたのです。
「もともと、まちづくりをしようという発想ではなく、自分が好きに楽しく暮らせる場所をつくりたいのが基本。1つずつの店が面白ければ、地域も面白くなるはずですから、自分が良いと思う店に来てもらいたいと思っています」と塩田さんは話します。
↑まちに何も無いのであれば自分の好きなように作ってしまえ
アメリカでは「自分の住んでいる場所の価値を上げる」という考えのもと不動産のオーナーを中心とした民間主導で街づくりが行われて、日本のように「行政はダメだ」と自分は何もしていないのに批判ばかりしているというようなことはなくて、地域の公園や学校の校庭でさえ住民たちが作るのが当たり前になっています。(6)
大手広告代理店で営業マンとして17年間働いた宮原秀雄さんは、東京から宮崎の青島に移り住むと海水浴場の新しいあり方を探していた市役所職員と出会い、青島のビーチをリブランディングして「AOSHIMA BEACH PARK」を作り上げました。(7)
そんな宮原さんは、土日でも深夜でも必要があれば仕事をするし、逆に平日でも波が良ければサーフィンを楽しむ「仕事の中に遊びを、遊びの中に仕事を」というライフスタイルでボーダーレスな暮らしを実現しています。
↑まずは自分が楽しまないと地域だって面白くなるわけがない
マーケティングコンサルタントのサイモン・シネック氏は「何を(What)」ではなく「なぜ(Why)」を示した時に人は動くのだと述べていますが、大事なことは便利な商業施設がたくさんあるということよりもそこに住んでいる人がどのようなまちに住みたいのかということであり、そう考えるとかなり高い生活の質を作ろうとしている人が集まってともに生活することでまちが活性化するというのはとても自然なことではないでしょうか。
「事業を大きくしよう」「ブームを作ろう」といったスタンスよりも、東川町の人々のように、自分たちの「スタイル」を作り、いいと思うものや暮らしを表現しようとする中で、街の価値を共有し、共創し合いながら無理のない生活を追求するといったライフスタイルが今の日本には足りないのかもしれません。
1. 島原万丈, HOME’S総研 「本当に住んで幸せな街」 (光文社、2016年)Kindle 12
2. 島原万丈, HOME’S総研 「本当に住んで幸せな街」 (光文社、2016年)Kindle 3
3. 玉村雅敏, 小島敏明 「東川スタイル 人口8000人のまちが共創する未来の価値基準」 (産学社、2016年) Kindle 316
4. 玉村雅敏, 小島敏明 「東川スタイル 人口8000人のまちが共創する未来の価値基準」 (産学社、2016年) Kindle 481
5. 玉村雅敏, 小島敏明 「東川スタイル 人口8000人のまちが共創する未来の価値基準」 (産学社、2016年) Kindle 1440
6. 木村斉 「稼ぐまちが地方を変える」 (NHK出版、2015年) Kindle 405
7. Discover Japan編集部 「Discover Japan 2017年 3月号」 (エイ出版社、2017年) Kindle 53
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