「やると決めたら必ずナンバーワンになる」と述べたソフトバンクの孫正義氏が、どんな困難があろうと必ずやり遂げる人だということは、一緒に仕事をした経験のある人であればよく分かることで、
一時期、パートナーシップを組んでいたベンチャー企業の経営者は、今、会社が大きく成長できているのも、孫氏から渡された無理難題を越えてきたからだと振り返っています。
実際、ソフトバンクのブロードバンド事業を例に見ても、意見が合わず技術者側からの協力拒否を受けながらも、最終的には世界一安価なインターネット接続サービスを実現していますし、頭の良さ、才能や財力の有無など、成功に関するキーワードは様々あるとは思いますが、たとえ、すべてのものに恵まれていたとしても道半ばで投げ出してしまえば、才能も財力も無意味なものにしかならず、まず、「やり遂げる」という意思を持つことが目標達成の基盤になるのです。(1)
↑1位になるための“基盤”は「やり遂げる」意思
福井県若狭湾の水月湖には、湖底にプランクトンの死骸、花粉、土や鉄分などの細かい堆積物が少しずつ積み重なることで、「年縞(ねんこう)」と呼ばれる規則正しい縞模様ができており、この縞模様の層一枚一枚に含まれている物質を分析すれば、過去の気候や環境を知ることが可能です。
0.7ミリの層一枚が1年分として数えられる水月湖の年縞は、実に50メートル以上も途切れることなく積み重なっていて、つまり、過去5万年という気が遠くなるような長い年月の歴史が記録されていることになるのですが、他国の年縞を確認できる湖でもこのような状態のものは確認されておらず、5万年の地球の歴史を伝えることができる水月湖は世界に評価され、“レイク・スイゲツ”と呼ばれるようになりました。
この水月湖での新たな発見が、国連のユネスコ本部で開催された「第21回国際放射性炭素会議・パリ2012」で発表されるまでには20年を要し、この間、水月湖の研究に関わった国際プロジェクトチームが直面した問題は数え切れません。
それでも、水月湖に隠されていた過去5万年分の記録が研究によって明らかになったのは、目標達成の基盤である「やり遂げる」意思を一人一人が持っていたためでした。
↑湖の底には過去5万年分の地球の歴史が埋まっていた
水月湖の研究に一番初めに立ち上がったのは、国際日本文化研究センターの安田善憲教授でした。この時、分析手法はまだ確立していませんでしたが、やってみなければ先へは進まないと考えた安田教授は、水月湖の掘削を決断したのだそうで、京都大学大学院生でこのプロジェクトに携わっていた中川毅氏は、当時のことを次のように振り返っています。(2)
「大きすぎるリスクを避けて水月湖を掘削しない理由は、見つけようと思えばいくらでも見つかったはずである。だが安田先生は、水月湖を基盤まで掘削する決断をした。しかも、ボーリングを請け負った川崎地質株式会社から1000万円近い借金をしての掘削である。」
安田教授のこの決断が功を奏し、掘削で引き上げられた土には期待以上の綺麗な縞模様が入っており、さらなる研究の駒を進めることになったのですが、問題はこの先も絶えることはありませんでした。
↑新たな発見の先には大きな壁が待っている
安田教授の助手として国際日本文化研究センターで働いていた北川浩之氏は、安田教授によって引き上げられた土の縞模様を数え上げることができれば、過去何万年にも遡って、いつ何が起きたかを詳細に解明できると考えました。
期待以上に綺麗な状態の年縞とは言っても、やはり、すべての層がつねに肉眼で確認できるほどはっきりしているというわけではなく、時代によっては、薄すぎたり乱れている部分も含まれていたため、電子顕微鏡から刃の薄いカミソリまで、ありとあらゆる道具を駆使しながら作業に取り組みました。
4万を超す膨大な数の層を細かい手作業で数え切ろうとする北川氏に対して、「無謀」と否定的な目を向ける人もおり、彼を精神的にも肉体的にも圧迫したことは容易に想像できますが、北川氏は決して断念することなく、誰よりも早く出勤し、誰よりも遅くまで実験室から出てこないことで有名だったと言います。(3)
↑どんなに時間がかかっても、解明するためにはあらゆる方法を試していく
何か大きなことを成し遂げるために、多くの人が重要視する才能やお金などは、所詮“環境”でしかなく、ペンシルベニア大学の心理学者アンジェラ・リー・ダックワース氏は、それよりも重要なのは目標を達成したいと思う気持ち、つまり、「やり抜く力」であると明言しました。
例えば、今年2016年、東京工業大学の大隅良典栄誉教授は、「オートファジー(自食作用)」と呼ばれる研究に28年もの時間を費やし、ノーベル生理学・医学賞を受賞しましたが、1988年に研究を始めた頃は、誰も大隈教授の研究に注目していませんでした。
それどころか、当時は自動で汚れ具合を検知して洗う「ファジー(fuzzy)」機能付き洗濯機が話題となっていたため、大隈教授が学術雑誌に「オートファジー(autophagy)」という表現を使おうとしたところ、編集者から「同音でまぎらわしい」とネガティブな目を向けられることも少なくなかったと言います。
↑結局9割の人がやり続け、やり抜くことができない
周囲から冷たい視線が向けられる中、大隈教授は一貫してオートファジーの研究に情熱を注ぎ、オートファジーに関係する遺伝子を突き止めるなど、新しい発見を次々に展開していくと、世界中から大隈教授が行っていた研究に興味を持つ学者たちが現れ、ようやく世の中からの理解が得られるようになったのです。
この時もし、大隈教授に「やり抜く力」がなければ、研究は続けられることなく、新しい発見もノーベル賞を受賞することもなかったでしょう。すべては自分の意思にゆだねられていると言っても過言ではないのかもしれません。
↑「やり抜く意思」は周囲の状況をも変えられる
水月湖のプロジェクトでも、安田教授はお金も人材も足りない状況の中で水月湖の掘削を、そして北川氏は分析方法や実際可能かどうかも分からない中で年縞を数え切ることを決断するなど、「やり遂げる」意思が続いてきたように、この後も水月湖のプロジェクトにおいて「やり遂げる」意思の連鎖は続いていきます。
大学院を終え、水月湖プロジェクトのリーダーとなった中川毅氏は、より正確に年縞を数えるため、方法を一つに絞るよりいくつかの方法で分析をしようと、ドイツのポツダム地質学研究所、アヒム・ブラウアー博士と、イギリスのアベリストウィス大学、ヘンリー・ラム博士の2人の優秀な博士にもプロジェクトへの参加を依頼しました。
↑どんな過酷な状況でも「やり抜く意思」だけは続いてきた
複数の方法で分析しても、最終的には分析結果についてより正確な方を選ばなければならないため、博士の時間と費用をかけた研究が、一切無駄になる可能性があるという条件付きの依頼だったのですが、日本の研究者側の情熱が伝わり、ブラウアー博士とラム博士は「それで構わない、ぜひやろう」と、快くプロジェクトへの参加を承諾しました。
世界をリードする目上の相手に対し、条件付きの依頼を突き付けるのは、非常識と言えるかもしれません。ところが、水月湖プロジェクトにかける情熱の深さから、両博士は研究内容に興味を持って乗り出し、このプロジェクトをさらに前進させ、水月湖を正確な地球の歴史の“標準時計”と為すことに至ったのです。
↑非常識であっても、目標達成のためを考えて行動する
前述したダックワース氏は、著書「やり抜く力」の中で、「才能よりも重要なのはグリット(やり抜く力)である」と記しており、グリットは、「情熱」と「粘り強さ」の2つの要素から成り立っているとし、次のように述べています。(3)
「グリットとは目標を達成するために毎日ひたすら目標と向き合い、情熱を持って取り組み続けること。1週間や1ヶ月といったスパンではなく何年間も続くものです。それはマラソンのような感覚でしょう。そのように続けていれば、やがて目標達成に繋がっていきます。」
夢を諦めた経験のある人を対象に、その理由を調査したところ、多くの人が才能や年齢の限界、そして金銭的な問題を挙げていますが、結局のところ、それは“夢をあきらめた理由”なのではなく、“夢をあきらめるための言い訳”なのかもしれず、できるかできないかは、自分の「やり抜く」意思にかかっているのではないでしょうか。
1. 大下英治 「孫正義 企業のカリスマ」 (2013年、講談社) Kindle 164
2. 中川毅 「時を刻む湖―7万枚の地層に挑んだ科学者たち」 (2015年、岩波書店) p.12
3. アンジェラ・ダックワース 「やり抜く力」 (2016年、ダイヤモンド社) Kindle 48
本ブログは、Git / Subversionのクラウド型ホスティングサービス「tracpath(トラックパス)」を提供している株式会社オープングルーヴが運営しています。
エンタープライズ向け Git / Subversion 導入や DevOps による開発の効率化を検討している法人様必見!
「tracpath(トラックパス)」は、企業内の情報システム部門や、ソフトウェア開発・アプリケーション開発チームに対して、開発の効率化を支援し、品質向上を実現します。
さらに、システム運用の効率化・自動化支援サービスも提供しています。
”つくる情熱を支えるサービス”を提供し、まるで専属のインフラエンジニアのように、あなたのチームを支えていきます。
No Comments