ビジネス・インサイダーが2015年2月に掲載した記事によると、グーグルで年収10万ドルを稼ぐエンジニアになるためには、11個のスキルが必要であるとされており、その中にはいくつかのプログラミング言語、理論数学の予備知識、アルゴリズム、人工知能、そして暗号についての知識も求められるのだと言います。
グーグルには年間250万人ものエンジニアが就職を希望します。採用されるのは、その中の4,000人程度ということを考えると、その狭き門を通るためには専門スキルだけではなく、いわゆるヒューマンスキルが必要なことは言うまでもありません。
↑グーグル「250万人の希望に対し、採用されるのは4,000人程度。」
以前はどちらかと言うと、ITといえば、会社の業務の効率化を図るツールとみなされていました。
現在、企業の戦略やビジネスそのものと密接に結びつくようになっているため、エンジニアにもますますこのヒューマンスキルが求められるようになってきています。
考えてみると、どの専門職においても、専門スキルだけでなく、ヒューマンスキルが求められるようになっていることは共通しています。
例えば料理人に関しても、以前は口数が少なく、頑固に自分の腕一本で勝負するような職人が、「料理人の鏡」のようにみなされていましたが、今では領域を超えて新しいメニューを創造しようとする発想の柔軟性や、お客さんに自分の料理について説明できるような人材が求められるようになってきています。
↑料理人にも求められる新しいヒューマンスキル
世界で最も予約が取りにくいレストランとしても有名な「エル・ブリ」のシェフ、フェラン・アドリア氏は、多数の書籍を出版し、自分の料理のレシピを含めて公開したり、クリエイティブな料理を無名の料理家たちとチームで作り上げたり、料理と科学を結びつける手法を取るなど、料理界に革命を起こした人物として知られています。
これらはオープンソース化、チームワーク、そして他業種とのコラボレーションなどとも言い換えることもできますが、こう見ると料理人とエンジニアの仕事は、類似するところが少なくありません。
↑無名の料理家たちがチームで、新しい料理を作る時代
ジャン・レノ主演のフランス映画「シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ」に最先端の料理として、煙を吐き出す液体窒素や、実験室で使われる試験管を用いた「分子料理」というジャンルが登場しますが、これは別に映画を面白くするための演出ではなく、フェラン・アドリア氏が提唱した料理法の一つです。
この「エル・ブリ」の料理のコンセプトとして、「古典的な料理や伝統料理をいったん徹底的に分解して、新しいものに組み立て直す」という考え方があります。
これまでどちらかと言うと、料理人の勘や感性によって作られるものだと思われていたものを、科学的に、分子のレベルにまでバラバラにする「分子料理」という手法が結びついたのも、いわば必然と言えるのかもしれません。
↑伝統を最新の科学で一旦すべて分解する
しかし、分子料理は何も料理を限られた人たちだけに閉ざそうとして生み出されたものではありません。
あくまでも「人の五感すべてに働きかけ、さらに人の脳をびっくりさせる料理」の一つとして生み出されたもので、それは和食料理人の中村元計氏が述べた視点とも共通します。(1)
「どんな新しい技術を使っても、お客さんにおいしいと思って食べてもらわないと意味がありません。お客さんが食べる前に“これは新しい科学的な調理法でつくった料理で・・・”と説明するのは野暮です。」(2)
↑人の五感すべてに働きかける料理
エンジニアにしても、料理人にしても、スキルや技術で細部にこだわること、言い換えれば「ミクロ」の視点も必要ですが、生産性だけではなく、創造性まで大いに求められる時代には、それらのスキルや調理法をどう結びつけて顧客に満足してもらえるか、「マクロ」の視点が必要になってきます。
分子料理もマクロをミクロにするだけではなく、ミクロからマクロ、つまり分子レベルで解析してわかったことに基づき、最適な手法を考えて、料理を作ることも常に実践されています。
↑生産性と創造性の反復
「分子料理」の考案者であるフェラン・アドリア氏は日本に来た際に、和食の寒天やくずの「ゼリーで固める」技術を学び、それをフランス料理にも取り入れましたが、これが技術をどのように応用するかを示す良い例だと言えるでしょう。
学校法人辻調理師専門学校の理事長、辻芳樹氏は、和食が世界で成功するために絶対に必要なのはこの「変換力」であると述べています。
例えば、日本でも有名なラーメン店の「一風堂」がニューヨークに出店した際には、欧米人のコース料理を楽しむ文化と結びつけ、最初に食前酒やオードブルを出したあとにメインディッシュとしてラーメンを出すという工夫をおこない、成功をおさめました。
↑自分たちの伝統を上手く変換して、付加価値を付ける
フランス料理を専門として学んだシェフの成澤由浩氏は、この分野の技法をただ極めようとするのではなく、東京青山に「NARISAWA」というレストランを開きました。
そこで「森の料理」をテーマとして、最初から最後まで「自然と一体化する」という哲学に基づき料理を提供していますが、フランス料理、懐石料理、そして中華料理などそれぞれのジャンルや手法(ミクロ)を用いて、ストーリー性のある料理(マクロ)を提供する」姿勢は世界の料理界から高い評価を受けています。
現在では、世界の料理人や批評家、ジャーナリストが選ぶ「世界のベストレストラン50」に5年連続で選出され、そのうち3回はアジアのベストレストランに輝いているほどの人気ぶりです。
↑ミクロとマクロの融合が一番心地よいポイントを作る。
エンジニアが経験を積み、年齢が上がれば上がるほど、技術力に加えてヒューマンスキルが必要になるということはよく指摘されます。
そのコミュニケーションスキルをアップさせるための書籍や、どう顧客と交渉するかをレクチャーする講座は世の中に多く出回っていますが、真のヒューマンスキルがそんなに薄っぺらい、ちょっとした努力で身に付けられるものであったら、当然のことながら何の意味もありません。
むしろエンジニアがやるべきことは、顧客満足や問題解決という「マクロ」のためには、複数のプログラミング言語や最先端の人工知能、そしてアルゴリズムに関する知識や技術という「ミクロ」を結びつけようという価値観、仕組みを自分の中にしっかりと持つことなのではないでしょうか。
参考書籍)
(1)石川伸一『料理と科学のおいしい出会い:分子料理が食の常識を変える』(DOJIN選書、2014年)p.15
(2)石川伸一『料理と科学のおいしい出会い:分子料理が食の常識を変える』(DOJIN選書、2014年)p.26
(3)辻芳樹『知られざる和食の世界』(新潮新書、2013年)
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