フルハイビジョンの4倍のきめ細やかさで、高画質な映像を再現する4K映像が、「Netflix(ネットフリックス)」によって、日本でも月額1,450円で見られるまでに低価格化し、身近なものとなってきています。
通常の家庭サイズのテレビでは気づきにくいかもしれませんが、80インチの超大型テレビを1.5mの近距離で見た場合、フルハイビジョンは画像の粗さを感じるのに対し、4Kであればそういったことはありません。
その解像度の高い映像は、人間の脳内のヘモグロビン値を増加させるなどの生理現象に影響を及ぼし、結果として、まるでそこに自分がいるような没入感を与え、その立体感や臨場感が見る人に強い感動を与えることがパナソニックと大阪市立大学の共同研究で証明されました。
↑4Kテレビでは脳の活性度合いが違う
映像の原点は、「映画の父」と呼ばれるリミュエール兄弟の実写映画、「工場の出口」にありますが、ロシアの作家、ゴーリキーがリュミエール兄弟の映像を見て、「まるで黄泉の国のようだ」と表現したように、人々に世界の裏側にある出来事をリアルに伝え、異次元の世界までをも感じさせてくれるメディアとなりました。
リュミエール兄弟の「工場の出口」を見た当時の観客は、スクリーンの後ろに人が隠れているのかと思ったといいますが、人間はどんなことにもすぐに慣れるもので、映像の世界を普通に受け入れた私たちは、今は4Kに惹かれ、もっと現実に近いもの、あるいは現実を超えるものが見られるのではないかという期待を膨らませています。
↑どれだけキレイな画質で何百チャンネルを見ることができても、結局すぐ当たり前になっていく
1970年代から開発が始まったバーチャルリアリティも、近い将来、日常生活に入り込むことが予想されており、ゲーム関連のイベント企画や雑誌編集を手がけるA MAZE.の創設者Thorsten S. Wiedemann氏は、48時間のバーチャルリアリティ生活を経験した後も、健康面で何ら問題はなく、2026年までには多くの人が長時間のバーチャルリアリティ生活を経験しているだろうと語りました。
バーチャルリアリティの日常化は開発が始まった当初、無理だと言われていたことですが、それが一気に現実味を増した理由の一つに、コンピュータグラフィックスの飛躍的な進歩によって、映像に含まれる情報量を圧倒的に増やすことが可能になったことがあります。
↑テレビと同じようにバーチャルリアリティも10〜20年後は当たり前になる
つまり、情報量を増やしていくほど、リアルにないものが「リアル」に見えることが可能になるわけで、情報量を無限に増やしていけば、現実の世界とディスプレイ上の映像は、区別がつかなくなるということが起こっていきます。
その点に関して、メディア・アーティストであり、筑波大学助教授の落合陽一氏は次のように語ります。
「解像度という言葉を拡張していくと、現実世界はある意味では無限に解像度が高いディスプレイであるとも考えられます。そして、この無限に解像度が高い錯覚の信号からイメージが生成できれば、それは現実と変わりないのではないかと考えたのです。」(1)
↑解像度を高めていけばディスプレイは現実世界となっていく
わたしたちは「光」を「視覚」で感じていると考えていますが、落合氏はレーザーによって空気をプラズマすることにより、触れることができる「光」を発表しました。これはSFの世界でしかあり得なかったような、「触れて操作できる空中に浮かぶ3次元ディスプレイ」の可能性を予感させます。
これまで映像メディアに限界があったために、情報を二次元の不完全な領域に押し込めるしかなかっただけで、実際、わたしたちは「リアルなもの」を、五感(視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚)すべてを使って体験しています。
将来的に扱える情報が増えれば増えるほど、再現性は高まりますし、そうした情報は3Dプリンタによって、さまざまなメディアで三次元の世界の中に再現することが可能になり、近い将来、私たちは当たり前のように、人間の「自然」な感覚に接近したエンターテイメントを楽しんでいるはずです。
↑情報量が増えれば、リアリティの再現性は一気に増す
前述した落合陽一氏は、このようにITと自然が密に深く絡み合う世界を、「デジタルネイチャー」と呼びますが、自然というリアルな世界まで広がりを見せるメディアをいかに形作るかは、人間のイマジネーションやアイデア次第であるということを、落合氏はこのように語ります。
「人間がコンピュータに与えるべきものは、実はそのモチベーションやビジョンであり、行動へと舵を切るきっかけです。」(2)
↑物質世界まで浸透してくるメディアをコントロールするのは、結局は人間。
「デジタルネイチャーなんてまだ先のこと」と考えるかもしれませんが、将来IoTによって、世界のあらゆる端末がインターネットに繋がれば、メディアとして使われるものはどこにでもあるような状態になり、まさに空気のように意識されなくなります。
その最先端にいるエンジニアは、一番最初にその一部に組み込まれてしまうことになりかねず、目的を意識せずにいれば、自分がデジタルを操作しているのではなく、無意識のうちにデジタルという名の「自然」に生きるようになってしまうかもしれません。
↑自分が作り出した世界にどんどん引き込まれていく
そうした不安材料のある中で、メディアがリアルに近づき、リアルを実現する方向に向かっている中で、メディアは自然界をより正確に知るためのツールとなり、これから多くの自然のなぞが解明されるのではないかとも考えられています。
例えば、2016年3月に発表された論文によると、フランスで1970年代なかばに発見されたものの、詳しいことがわからなかった3億年前の生物の化石を高解像度でCTスキャンし、3Dモデルで復元した結果、最古のクモに非常に近い節足動物であることが分かりました。
こういった利用法をみると、落合氏が言うように、わたしたちがコンピュータを「舵取り」し、人間の側でビジョンを吹き込むことの意味を感じ取ることができます。
↑今後、様々なメディアがよりリアルかつ鮮明に表現されていく
かつてリュミエール兄弟が生み出した「映像」が20世紀の人類に夢をあたえてくれたように、デジタルメディアは21世紀の人類に新たな夢を見せてくれるものでもあります。
コンピュータに支配される時代が来るという2045年問題があり、情報社会によって自然離れが進んでいるといいますが、デジタルメディアが自然と接近することは、人間と自然との関係を改めて考えさせられる大きな転機となるかもしれません。
私たちはあらためて、「リアル」な世界の面白さを知るようになり、そこから作られたリアルを広げていくのか、あるいは自然の面白さを見直すのか、どんな未来を手に入れるべきかを考えてみる必要があるのではないでしょうか。
参考書籍)
1. 落合陽一「魔法の世紀」(PLANETS、電子書籍版2015年)p.680
2. 落合陽一「魔法の世紀」(PLANETS、電子書籍版2015年)p.2244
3. 伊藤穰一監修 「角川インターネット講座15 ネットで進化する人類 ビフォア/アフター・インターネット」(角川学芸出版、電子書籍版2015年)
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