世界各国のトップレベルの選手が集まるメジャーリーグでは、外国人選手が約3割を占めており、日本では1964年に日本人初のメジャーリーガーが誕生して以降、1995年にメジャーリーグで新人王を受賞した野茂英雄投手や、ニューヨーク・ヤンキースとメジャーリーグ史上5位の、7年間で総額1億5,500万ドルで契約した田中将大投手など、多くの日本人選手が挑戦し続けている夢の舞台がメジャーリーグです。
世界のプロ野球選手が夢見る野球の最高峰であり、30チームあるメジャーリーグですが、約15年前は日本のプロ野球と比べてもそれほど収益の差はありませんでした。
ところが、リーグ全体の事業でオンラインでのグッズ販売や、海外でのテレビ、ネットでの放映権収入などのリーグビジネスによって収益を上げるようになって以降、2003年から2009年の間に各チームへの分配金が平均30億円から40億円と成長し、今ではメジャーリーグ全体の収益は、約5,000億~5,500億円(66億ドル)と、日本のプロ野球との格差は約4倍もあると言われています。
↑メジャーリーグの収益は日本のプロ野球の約4倍
アメリカでは1試合における観客の平均動員数がメジャーリーグの約2倍のNFLや、リーグ収益が約5,000億円規模のNBAとのスポーツファンの獲得競争が熾烈であり、野球リーグ全体を魅力のあるコンテンツとして、時代に応じたサービスの提供をしていかなければメジャーリーグ自体だけでなく、野球自体が廃れていくのを避けられません。
その中で、特にメジャーリーグの収益を高めるために貢献したパド・セリグMLBコミッショナーは、インターネットでのチケット販売や、ストリーミング動画の配信などを通して、BtoCビジネスを行うために、「MLBアドバンスト・メディア」を設立し、メジャーリーグは10年間で約450億円の売り上げを誇るようになりました。
↑インターネットを最大限に活用して、いち早く時代の流れに乗った
メジャーリーグのチームが一体となってメディアとの交渉にあたるなど、全体として収益を確保するためのリーグビジネスでは、1チームあたり30億円以上となる収益をあげることができ、これが順位が下位で独自の収益の少ないチームにもそれぞれ分配されることで、良い選手が一つのチームに集中することを防ぎ、結果、どのチームが優勝するか分からない状態を長く続けて試合が盛り上がり、野球という商品価値が高まると言います。
Microsoft創業者であるビル・ゲイツが「Contents is king(コンテンツは王様だ)」と言っているように、メジャーリーグでは収益を伸ばすためには、収益の元となる野球をコンテンツとして捉え、より魅力的なものと認知されるために、インターネットを通じて面白さを発信することが重要と考えられています。
↑今後、ビジネスではすべてのコンテンツは王様
特に最近では、ユーチューバーは日本の小学生が将来就きたい職業の4位となるほどに注目されていますが、野球をコンテンツへと変えていく手法として、動画を撮影し配信することでファンを増やすことは、収益を稼ぐユーチューバーに似ていると言え、実際に2014年シーズンの最初の1週間で、メジャーリーグ中継のストリーミング再生は9,400万回を超えていたそうです。
トップユーチューバーはゲームを実況するというコンテンツによって、年間に約14億円を稼ぎ出すと言われていますし、また、日本で20代の8割が利用しており、一人の平均滞在時間が1日当たり約100分というニコニコ動画や、全世界に6,500万人を超える視聴者がいるNetflixなどのインターネット配信サービスは、若者のテレビ離れが深刻化しているのとは裏腹に、現代の若者にとっては必要不可欠なものとして位置付けられています。
↑とにかくコンテンツを消費しやすくさせてあげることで、新たなビジネスはいくらでも生まれる
アイドルファンが一年間に消費する金額は、コンサートチケットや写真撮影会、そして握手会などによって平均約80,000円と言われるのも、配信される動画コンテンツの面白さや、アイドルが作り出すコンテンツの独自の世界観に魅力があり、またSNSやブログを通じての発信努力によって、常にアイドルを身近に感じる事ができ、ファンの心が離れることがないためで、こういった現代のファンの心理に沿うことで、メジャーリーグにおいても面白さが再燃したと言えそうです。
メジャーリーグは、どこでも気軽にお気に入りのコンテンツをスマートフォンを通してみることができ、ファンにとってメジャーリーグは身近な存在になっていますが、その一方で、日本のプロ野球界は、1994年にテレビ放送でプロ野球史上最高視聴率48.8%を記録してから20年を経た今、現在は5%を切るほど低迷していると言われており、2008年から2015年までの間だけでも、ファンの数は1,500万人近くと減少が著しいです。
↑今の若者にはプロ野球なんかよりも楽しいことが沢山ある
この背景には、チーム戦力の不均衡や人気選手のメジャーリーグ移籍によるところがあり、その大きな要因として、日米の収益格差を約4倍にさせた立役者のパド・セリグ氏のような、強力なリーダーシップで球界を統括するコミッショナーが日本には存在せず、日本のコミッショナーの場合は、自らリーダーシップをとって日本のプロ野球リーグを発展させるための施策を実行することはないそうです。
「オーナー会議の立会い人」と世間では呼ばれているほど傍観的な日本のコミッショナーに対して、マッキンゼー・アンド・カンパニーで最年少役員に就任し、現在は企業への経営コンサルティングを行っている並木氏が、日本のプロ野球の改善計画を提案しに行った際にも、リーグのために何かをするというリーダーシップを感じることができなかったといいます。(1)
↑日本の野球界は、野球界全体の責任者よりも、球団のオーナーの意見が通る
かつて、日本で野球人気が低下する以前は、日本の国民的スポーツとして日常の生活にプロ野球は存在し、特に人気だったジャイアンツの試合は全国にテレビ中継され、少年達はお気に入りのチームの打順や選手の背番号まで暗記していたほどですが、家族団らんの姿が過去のものとなろうとしている今、その幻影に囚われていては、プロ野球界全体としての低迷を解決することはできません。
プロ野球をより面白いコンテンツにしてファンを増やしていくことに関して、北海道日本ハムファイターズ事業本部長である成田氏は、年間200万人の来園者がくるという旭山動物園の動物というコンテンツのように、野球が持つ魅力を工夫されたアピールによって伝え、野球観戦に新しい発見をしてもらうこと、つまり、ハードに手を入れながら、見せ方であるソフトを改善する必要があると言いました。(2)
↑動物園や水族館のように野球も新しいコンテンツとして捉える
韓国のプロ野球でも、野球の試合というコンテンツに、カラオケや映画と同じようなエンターテイメントという要素を加え、スタジアムをDJが沸かせたり、公開プロポーズやキスタイムなどの遊びを取り入れ、若者が盛り上がれるようにしたことで、10年間で観客動員数を3倍以上にまで増やし、年間の観客動員数が約700万人を突破しているようです。
そういった海外野球の変化によって日本のプロ野球の低迷に危機感を高めている球団は、コミッショナーに頼らず、年齢や性別など関係なく、お客様を集めるためにはコンテンツを楽しんでもらおうと、今まで野球に見向きもしていなかった新しいファン層を取り込むための施策を始めているところです。
↑使えるものは最大に活用して、時代ともに新しい付加価値をつけていく
たとえば広島東洋カープでは、赤いユニフォームと帽子を着用して応援する10~20代の「カープ女子」と呼ばれる女性ファン層を集めており、福岡ソフトバンクホークスは2014年から「タカガールデー」というイベントを開催していて、来場者の約7割が女性ファンで非常に話題となりました。
これは女性客がtwitterやfacebookで写真をシェアすることで、同年代の女性達に広まり、野球が一つのトレンドとして認知されることを目指していて、「イーグルス女子」の拡大に取り組んでいる楽天イーグルスの森井誠之・営業本部長も、「女性の発想力、人を連れてくるスピードの速さはすごい」と語っています。
↑若い女性から新しいトレンドが生まれていく日本のプロ野球
球団がそれぞれに工夫した施策に取り組んでいるとはいえ、これだけでは根本的な問題である球団の強さの差を埋めたり、新たな球団を迎えるなど、リーグ全体を改革することは難しいでしょうし、今後はメジャーリーグのリーグビジネスのように、プロ野球界が一丸となって、リーグとしてのプロ野球の面白みや、他のスポーツと違う野球の魅力を追求する必要が出てくるでしょう。
かつて日本の産業はアメリカやドイツの様々な製品をリバース・エンジニアリングして、そのオリジナル製品を改良し、日本の良さを織り込んだ事で、人々の生活レベルの向上に貢献し、世界の一流国として認められました。
日本のプロ野球においても、メジャーリーグでの成功事例をもとに、野球というコンテンツを充実させ、それによって生み出された新しい魅力を配信していくことで、日本のプロ野球は時代のニーズにあった形に生まれ変わる事ができるのではないでしょうか。(3)
↑日本のプロ野球は日本だけに留まっている必要はない
アメリカでは、大学生が就職したい企業でメジャーリーグは17位と、4大スポーツの中で唯一100位以内に入っているように、野球界が若い人材にとって魅力的な場所だと認められていますし、日本でもまだ世の中には人を魅了するエンターティメントが数多くあります。
それら全てが野球のライバルと捉えると、常に野球を面白く、話題性があり、多くの人が熱中するようなスポーツとしてコンテンツを高めていくことは必須であり、それによって野球は再度盛り上がり、野球自体も廃れていく事はないのかもしれません。(4)
参考書籍)
1. 並木 裕太 『日本プロ野球改造論』(ディスカヴァー携書、2013年) kindle 609
2. 並木 裕太 『日本プロ野球改造論』(ディスカヴァー携書、2013年) kindle 1102
3. 中根 滋 『アップルを超えるイノベーションを起こす IoT時代の「ものづくり」経営戦略』(幻冬舎、2015年) p.205
4. 岡田 功 『メジャーリーグなぜ「儲かる」』(集英社、2015年) p.226
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