2014年に米国科学振興協会(AAAS)が公表した調査結果によると、米国人の4人に1人は地球が太陽の周りを公転していることを知らなかったとのことです。
日本人からしてみれば驚くべき結果ですが、キリスト教では、ガリレオの唱えた地動説よりも、宇宙の中心は神が創った地球であるから、太陽が地球の周りを回っているのだと考える天動説のほうが受け入れられており、実際に、ローマカトリックが地動説の正しさを認めてから今に至るまで24年程度しか経っておらず、国民の69%がキリスト教というアメリカでは納得のいく数字なのかもしれません。
キリスト教が天動説を主張したように、組織が「私たちがどのようにこの世界を見るか」ということにつじつまをつけるものとして、「理論」が役立ちますが、同時に理論は、物事を正しく見ることを難しくしてしまう可能性も持っていて、アメリカの行動経済学者ダニエル・カーネマンはこう述べました。
「当たり前のことが見えないとき、見えていないことにすら気づかないときもある。」(1)
↑当たり前のことが見えないとき、見えていないことにすら気づかない
ガリレオが望遠鏡による「測定」によって、天動説の理論を覆したように、データを集めることが簡単になった現代社会では、当たり前のように信じられている理論が必ずしも正しくはないということが次々と明らかにされつつあります。
かつてニューヨークのブルームバーグ市長の元で消防対策に尽力したマイク・フラワーズ氏は、消防に集まる過去の火災発生件数や、311(市民が苦情をよせる番号)にかかってくる問い合わせ件数などの情報が、住宅火災を防ぐために重要なデータになるというのは思い込みであり、この情報だけでは住宅火災を防ぐのに結びつかないと感じていました。
理論的には、こういった件数の多いところを見れば、火災が発生する可能性の高さを推測することができると言えそうですが、フラワーズ氏のチームが実際にそれを役立てることはできなかったのです。
過去の火災発生件数の測定だけでは不十分だった
そこでフラワーズ氏は、他の部署に保存されている、「住宅ローンの不履行、建築基準法違反、建築の築年数、周辺地区の貧困度」という4つのデータを組み合わせて調べたところ、その4つのリスク要因が重なった住所では、過去の苦情や火災発生が全くなかったとしても、火災の発生率が劇的に高くなることが分かりました。
消防として正しいと思われた理論を白紙に戻し、新たな視点で測定を重ねた結果、それまでにはなかった有効な問題解決の方法が生まれたのです。
↑一見関係ないデータを結びつけることで解決策を生み出す
「測定」によって、文化を新しい見方で考える取り組みも生まれていて、それは「カルチャロミクス」という学問に代表されます。
カルチャロミクスを生み出したエレツ・ハイデン氏とジャン=バティースト・ミシェル氏は、過去にGoogleの研究員を務めた経験を活かし、Googleがスキャンした約3,000万冊という膨大な書籍の中のフレーズや単語の出現頻度の合計数を、「Nグラム・ビューワー」というツールを使って測定することを実現しました。
たとえばこのツールで、有名人の名前がいつ、どのくらいの頻度で出現しているかを測定すると、「有名になるとはどういうことなのか」を定量化することができる、これを言い換えれば、「名声」という言葉を定義付けることが可能ともといえます。
↑約3,000万冊という莫大な情報量からどう接点を見つけ出すかが、本当のデータの価値
このようにカルチャロミクスは、データ測定がこれまであまり入り込めなかった人文科学の分野である、言語学や文学、歴史にまで「測定」を適用し、常識や経験では裏付けられない、新しい視点で物事を理解することを助けてくれます。
2010年に世界中で20億の人々が10兆通の電子メールを送信したと言われていますし、SNSを経由して多くの人が個人的な日常の情報を蓄積し続けており、現代人は一人あたり平均して毎年1テラバイトの情報を生み出していると言われています。(2)
↑言ってしまえば、日々の行いすべてが新しいデータを生み出す
こういったビッグデータを多くの企業はマーケティングに活かそうと躍起になっていますが、従来の視点でデータの現状分析をするだけでは、効率化の実現ができるくらいに過ぎず、どうすれば集めたデータからまったく新しいイノベーションに繋げるのかということが問われています。
カルチャロミクスの特筆すべき点は、測定と相容れないところにいた人文科学に入り込み、人文科学の業界では予測できなかった事実を教えてくれるところで、科学者で組織理論学者のジョン・シーリー・ブラウンも、自分の立ち位置にとどまっていては、イノベーションは生まれないということを次のように述べています。
「イノベーションはたいてい境界で生まれる。新しいタイプのチャンスや課題の存在を示唆するパターンが見つかるのもそこだ。」(3)
↑イノベーションはたいてい境界で生まれる
今後はどの企業もビッグデータをどのように活用するかという課題に直面せざるを得ません。
膨大なデータを集めて、自社内でそれを使うための方法を考えるといった「測定のための測定」に終わらせず、一見すると関係ないように思われる他の分野と結びつけ、問題解決に用いるというオープンな使い方にチャレンジできる柔軟な考え方が、これからますます求められるようになりそうです。
参考書籍)
(1)ダニエル・カールマン「ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?」(ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2014年)
(2)エレツ・ハイデン&ジャン=バティースト・ミシェル「カルチャロミクス:文化をビッグデータで計測する」(草思社、2016年)p260
(3)ジリアン・テット「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」(文春e-book 、2016年)4102
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