(Photo by:easylocum)
かつて、数学が苦手な文系の学生は「数学が何の役に立つかわからない」とか「数の計算なんて足し算引き算ができれば十分」などと言い放っていましたが、望むと望まざるにかかわりなく、今や数学が世界を支配しつつあり、数学を基礎としたアルゴリズムが、今後ますます私たちの生活の中に入り込まれてくることが予想されます。
例えば、多くの人たちが使ったことがあるであろう「ナビタイム」というアプリは、一瞬にして、目的地までの最短ルートを膨大な交通機関の中から組み合わせ、最適なルートを検索してくれます。これはまさにアルゴリズムの産物であり、開発エンジニアは日夜アルゴリズムの論文を読み漁り、ユーザーに使いやすいように、パフォーマンスやスピードの向上を目指して、新しいアルゴリズムを書いています。
↑数学が世界の大部分を支配しつつある (Photo by:Tom Brown)
また、最近ではフランスのnetatmo社が世界で初めて、動いている人でも認識する「顔認識機能」を搭載したスマートホームカメラを発売しましたが、これも膨大なデータ量を処理するアルゴリズムの開発によって可能になりました。
グーグルの研究者も同じく、2012年にランダムに取り出された1000万枚という膨大な画像をコンピュータに読み込ませ、アルゴリズムを使って、機械学習(Deep learning)をさせましたが、その結果、コンピュータは自ら膨大な画像から一定のパターンを学び、ネコの顔と人間の顔の違いを問題なく認識できたと言います。
そもそも、アルゴリズムとは、英語で代数学を意味する「アルジーブラ」の派生語であり、アラビア語の「バラバラのものを再結合する」ことを意味します。つまりアルゴリズムとは、世界の複雑な事象をシンプルな要素に細かく分解し、それらの関係性やパターンを一瞬で分析することで、私たちの前に答えを持ってきてくれる仕組みだと言えます。
↑顔認識システムもアルゴリズムの所産(Photo by:Southbank Centre)
現在、アルゴリズムは乗換案内や顔認識のアプリ以外にも、論理だけでは解釈不能と考えられていた芸術の分野にまで進出しており、例えば、カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校のデイヴィッド・コープ名誉教授はアルゴリズムを用いて、オペラや交響曲を創作し、賛否両論を巻き起こしました。
コープ教授が7年もの歳月をかけて作り上げたアルゴリズム、「Emmy(エミー)」はバッハの合唱曲を何百曲も抽出し、それらをバラバラにコード化することで、感動的な曲のパターンを「学習する」システムで、ある日、彼がそのアルゴリズムを作動させ、食事を終えて戻ってくると、エミーは何とバッハのスタイルを辿った合唱曲を五千曲も作り上げていました。
イリノイ大学でこの曲が演奏された際、アルゴリズムによる作曲であることを知らされていない聴衆は感動し、驚愕したと言います。
↑アルゴリズムで作られた芸術は人を感動させるレベルまで達している(Photo by:TEDxHouston)
また、人間の心理に関わる分野にもアルゴリズムが導入され、アメリカではアルゴリズムを使った恋愛分析が1965年から行われています。現在、eHarmonyという恋人紹介サイトはアルゴリズムを用いて、ユーザーに258の質問をし、その回答に基づいてユーザーを29の性格パターンに分類させることで、今や、全米の結婚の2%、1日120組の結婚に影響を及ぼしていると言います。
さらに医療分野でもアルゴリズムは薬剤師の代わりをするようになり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校は、Swisslogというスイスのロジスティクス会社が製造したロボット一体以外、スタッフを一切おかない薬局を開設しました。
米国薬剤協会によれば、全米における人間による調剤ミスは毎年5150万件もおきていますが、このロボットは一度のミスをすることなく、200万件もの調剤を処理しています。
↑薬剤師「人間の調剤は毎年5150万件、ロボットはゼロ。」(Photo by:Michelle Ress)
アルゴリズムは近い将来、予防医としての役割を果たすことも期待されており、2010年、世界でも有名なベンチャーキャピタル企業Sequoia Capital は、AirStripという会社に投資しましたが、この会社は患者のデータを医師の携帯デバイスにリアルタイムで提供できるようなシステムを開発しました。いずれは家にいながらにして、医師に自分の心拍数や呼吸数をモニタリングしてもらえる仕組みが可能になることでしょう。
このように人類がアルゴリズムに求めるもの、それは予測不能なものを確実にしたいという願いであり、現代のアルゴリズムの基礎をなす確率論に大きな影響を与えた18世紀の哲学者・数学者ライプニッツは、「ほぼすべての物事の将来は、それらの関係性を調べることで予測することができる」と唱えていたと言います。
↑世の中の大体のことは、アルゴリズムで予測が可能 (Photo by:aguayo_samuel)
そして、現代社会において予測を目的としたアルゴリズムが最大限に活用されているのが株式市場で、かつて株式市場は生身のトレーダーが大声を張り上げて、売り買いするというイメージが強かったのですが、今では全米の取引の60%がアルゴリズムによって、導き出されたものと言われています。
これによって、取引コストが大幅に削減され、誰もが少額で株取引に加われるようになりましたが、同時に人間の手を離れた現代のマーケットは、いつアルゴリズムが暴走して、取り返しの付かない損失を引き起こすかわからないという巨大なリスクを抱えることになりました。
↑株式市場の取引の60%はアルゴリズム(Photo by:Scott Beale)
実際、2010年5月には「2時45分のフラッシュ・クラッシュ」と呼ばれる事態が発生しましたが、MITメディアラボの助教授ケヴィン・スラヴィン氏はTEDに登壇した際に、この現象について言及し、「株式市場全体の9%が消えてなくなり、今日に至るまで誰も本当のところ何が起きたのかわからない」と述べました。
2009年の終わり頃には、シカゴの投資会社の一つ、インフィニウム・キャピタル・マネジメントは、2度も自社のアルゴリズムのコントロールが効かなくなってしまい、システムが凄まじいスピードで先物を売り始めたため、マーケットは急落、同社は3秒間で、百万ドル以上の損失を出してしまいました。
↑効率が良い仕組みが一度暴走したら、取り返しがつかない(Photo by:Lydia Chow)
前述のケヴィン・スラヴィンはこうした事態を悲観的に捉え、こう述べました。
「私たちがやっているのは、もはや自分では読めないものを書くということです。判読できないものを書いているのです。自分たちの作った世界で実際何が起きているのか、私たちは感覚を失っており、それでも前に進み続けています。」
前に進みつづける以上、誰もアルゴリズムによって支配される世界を拒んだり、逃れたりすることはできないのかもしれませんが、実際は誰もがアルゴリズムの基礎をなす高度な数学について学んだり、プログラミングしたりできるようになるわけではないため、少なくとも、こうしたアルゴリズムによる「支配」に対して、抵抗力をつけ、慣れ親しむようにすることが大切なのかもしれません。
アルゴリズムの背後にある数学は普遍的なものですが、書かれるプログラムは人間が書くものです。これがどのように利用されるかは、結局のところ、市場のニーズに大きく左右されますが、自己利益だけのために「確実なもの」を追求するのではなく、不確実な「あそび」も受け入れ、楽しめる余裕だけは備えておきたいものです。
参考文献:
・クリストファー・スタイナー「アルゴリズムが世界を支配する」(角川書店、2013年)
・松尾豊 「人工知能は人間を超えるか」(角川書店、2015年)
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