はじめに
近年では、VMwareやVirtualBoxなどのソフトウエア・ハードウエア仮想化ソフトウエアを使ったシステム運用を環境マネージメントシステム(EMS)の取り組みとして実施する企業や、オンプレミス(自社運用)型のビジネスサイトを仮想環境を用いて提供している企業が増えています。ここでは、近年増えつつある仮想環境を利用したシステム運用の際に、注意すべきポイントについて解説します。
仮想環境で求められる運用とは
仮想環境は、コンピューターの処理性能の向上とともに企業だけで無く個人でも、研究やソフトウエア開発などを目的として気軽に利用しています。しかし、企業の情報システムの場合、継続的にシステムの運用を行う必要があり、仮想環境で構築したシステムの運用については、従来のシステム運用だけでは不十分な場合があります。ここでは、仮想環境で求められる運用フェーズについて解説します。
- フェーズ1:運用監視
仮想プラットフォームを構成するCPU、ディスク、メモリ、NICなどの物理レベル、仮想レベルのハードウエアインフラの監視を行うフェーズです。通常、物理・仮想マシンのCPU使用率やロードアベレージ、ディスク使用量、メモリ使用量、ネットワークのハートビート、アプリケーションのパフォーマンスなど監視項目は多岐に渡っており、インフラ上に問題が発生した場合、仮想環境上に構築されたアプリケーションやサービスの使用ができなくなるなどの障害要因となるため、システム運用監視は、可用性(Availability)および、事業継続計画(Business Continuity Planning/BCP)を実現する上で重要なフェーズになっています。 - フェーズ2:高可用性(HA: High Availability)
運用監視で得られたインフラのモニタリングデータを元に、高負荷などの要因によって障害が予見される仮想マシンに対して、①仮想マシンの構成変更、②別インフラへの移動、③フェイルオーバーによって、システムの負荷分散を行い、高可用性を実現するフェーズです。①仮想マシンの構成変更では、メモリ量、CPU数などのリソースを動的に増やすことで負荷分散を行い、②別インフラへの移動では、対象となった仮想マシンを他の異なる仮想インフラへの移動することで、負荷分散を行います。障害発生時には、③フェイルオーバーによって、スタンバイ機への自動的な移行を行うためサービス停止が発生すること無く、サービスを継続して利用することができます。 - フェーズ3:耐障害性(FT: Fault Tolerance)
インフラ上の仮想マシンを二重化し、プライマリ仮想マシンの障害時に、セカンダリ仮想マシンの自動起動を行うことで、最小限のサービス中断でプライマリ仮想マシンの代替として機能させるフェーズです。この二重化によって、インフラ上の仮想マシンの停止時間を最小限に止め、無停止システムとして運用することができます。
フェーズ2および、フェーズ3を複数の拠点で実施することで、拠点間のHA/FTシステムを運用することができます。また、オンサイトバックアップを相互に行うことで、災害復旧(DR: Disaster Recovery)によるビジネス継続性をより一層向上させることができます。
VMware vSphere Hypervisorを使った仮想システムの運用
VMwareは、仮想化ソフトウエアの開発を行うメーカーであり、VMware vSphere Hypervisorは最も利用されている無償の仮想化インフラストラクチャーと言えます。ここでは、VMwareの仮想化製品を利用した仮想システム運用と製品が対応する運用フェーズを解説します。
- VMware vSphere Hypervisor
製品に内蔵されたInfo Centerを使用したフェーズ1運用が可能です。ただし、Info Centerは、vSphereサーバのローカルコンソールから利用するため、テキストベースのメニューとコマンドラインインターフェースしか提供されません。このため、GUIによる運用監視を行いたい場合、vCenter Operations Manager(vCOM)を利用する必要があります。 - vCenter Operations Manager(vCOM)
vCenter Operations Managerでは、フェーズ1運用が可能です。仮想マシンの動的な構成変更、システムの監視項目に対してしきい値を設定し、しきい値に基づいた動的な構成変更を自動化できるなどのメリットがあります。また、vSphere Clientから全ての監視情報にアクセスし、グルーピングされた監視項目のカテゴリから素早く監視情報にアクセスできます。全ての監視情報がビジュアル化されており、障害が予見される仮想マシンなども目につきやすく可視化されています。後述するvCenter Serverおよび、VMware vCloud Directorを利用することで、オンプレミスで運用する仮想環境だけで無く、AWS(アマゾンウエブサービス)や、Windows Azure(アジュール)などのパブリック・プライベートクラウドの運用監視を行うことができます。 - vCenter Server
vCenter Serverでは、フェーズ1~3の全ての運用が可能です。vCenter Serverは、複数の拠点に分散した仮想インフラを統合管理するソフトウエアであり、vCOMとの連携により、vCOMではできなかったフェーズ2~3の運用を可能にしています。すなわち、複数のvCOMを統合管理する運用管理システムであり、vCOMが管理する全ての仮想インフラの監視データにアクセスでき、統合管理コンソールとして全ての運用業務を行うことができます。vCOMで紹介したVMware vCloud Directorを利用することで、クラウド上の仮想マシンの自動作成などの管理業務もvCenter Server上で行うことができます。
仮想システムの運用の際に注意すべきポイント
ここまで、仮想システムの運用フェーズおよび、VMwareの仮想化製品が対応する運用フェーズついて解説しました。ここでは、運用中の仮想システムまたは、新規仮想システムの運用を行う際に注意すべきポイントを解説します。
- 運用フェーズの決定
オンプレミス型または、クラウド(Public/Private)型で、仮想システムを運用する際に注意すべき第1のポイントは、仮想システムの運用フェーズを決定することです。決定した運用フェーズによって、システムの可用性や耐障害性が左右され、企業のビジネス継続計画にも影響を与え兼ねません。自社の提供するサービスなどによって、必要とされる運用フェーズが決まりますので、企業のコンプライアンスおよび、情報セキュリティポリシーなどに準拠する運用フェーズを検討することが重要になります。 - 運用形態の決定
仮想システムのオンプレミス運用を行う際に、システムの運用をアウトソーシングする企業も増えていますので、必ずしも構築から運用までを自社で行う必要はありません。365×24(24時間365日)の監視サービスを提供しているサービス・プロバイダもありますので、これらのプロバイダの提供する監視サービスを利用してフェーズ1運用を行うこともできます。また、多くのプロバイダは、クラウド型の仮想システムのフェーズ1の監視サービスを提供していますので、仮想システムの運用をアウトソーシングすることもできます。 - 総保有コスト(Total Cost of Ownership/TCO)
運用フェーズや運用形態を決定する際に重要な要素となるのが、総保有コスト(TCO)です。オンプレミス型または、クラウド型の運用では構築の際の初期費用(イニシャルコスト)だけを見ても大きな差があります。例えば、AWS(アマゾンウエブサービス)では、Amazon EC2の場合、月750時間の無料枠が設定されており、利用条件に制約はありますが、実質1ヶ月無料で1年間仮想マシンを利用することが可能です。この無料枠の範囲で、仮想システム上にサービスを構築し、ビジネスサイトを運用している企業も数多くあります。これらのクラウドサービスを利用しながら、仮想システムの運用を検討することで、初期コストを抑えることができます。ただし、企業のセキュリティポリシーによって、企業内の情報を外部に保存できない場合もありますので、クラウド型が選択できない場合もあります。対して既に運用中の仮想システムの場合、運用フェーズと運用形態によって総保有コストが大きく変わります。例えば、フェーズ1のアウトソース運用とインソース運用の場合、インソース運用に必要なプロダクトフィーやライセンス費用を必要としないアウトソース運用の方が、総保有コストを抑えることができます。
まとめ
ここまで、仮想環境を利用したシステム運用の際に、注意すべきポイントについて解説しました。近年では、従来のオンプレミス型の仮想システムだけで無く、クラウド型の仮想システムもサービスとして利用できるようになっています。また、仮想システムの運用についてもインソース運用だけで無く、アウトソース運用サービスを提供するサービス・プロバイダも増えています。仮想システムが、企業のコンプライアンスや情報セキュリティポリシーに果たす役割が大きければ大きいほど、仮想システムの重要度が大きくなります。重要度に応じた運用フェーズを決定し、インソースまたは、アウトソースなどの運用形態を決定することが、仮想システムの安定的な運用に繋がります。ここで解説した運用の注意すべきポイントを参考にして、仮想システムの運用を一度見直してみては如何でしょうか。
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