(Photo by:Sandra Schön)
ITを活用する多くの企業において、オープンソースソフトウェア(OSS)はとても魅力的なものになりました。しかし、個人のPCで完結する範囲であれば簡単に導入できるものが、組織全体となると導入までが煩雑になり、オープンソースソフトウェア(OSS)の導入は難しいと判断されがちです。
最近、調査会社IDC Japanは「国内企業におけるオープンソースソフトウェアの利用実態調査結果」を発表しました。
オープンソースソフトウェア導入の状況として、
- 「本番環境で導入している」と回答した企業は31.5%
- 「試験的に導入している」は5.2%
- 「導入に向けて検証している」は4.1%
- 「これから導入を検討する」は10.0%
- 「導入の予定はまったくない」は33.3%
- 「今後の予定は分からない」は12.1%
本記事ではユーザー企業がオープンソースソフトウェア(OSS)を導入するにあたり、ありがちな疑問を1つずつ説明してOSSの理解を深めて行きたいと思います。
(Photo by:Donnie Ray Jones)
疑問1:OSS導入でコストは安くなるのか?
答え:ライセンス購入費用が安くなるが運用コストは別。
OSS導入について「安くなるよ」「いやいや高くなるよ」という両方の意見が聞かれると思います。一体どちらが正しいのかと疑問に思う所ですが、この「安くなる・高くなる」の単語の前に実は「状況によって」という単語が省略されているため、どちらも正しいです。
例として、もしPC1,000台にOSSのオフィス系ソフトをインストールする場合、ライセンス費が掛からないため初期費用が安くなりますし、数年間に渡りサポート・更新業務を頻繁に行う場合はコストが高く成るイメージが出来ると思います。
ライセンス費用が掛からないOSSを導入すると、初期費用を格段に小さく抑える事が出来ます。その反面、プロダクトを購入すると同時に付いてくる無償の保守・サポートを受けられないため、このサポートを導入から4年5年と受け続けると、毎月の保守費用の累計額が、購入候補だったライセンス費用よりも高くなる可能性があります。
OSSの導入サポート、使い方の説明、ファイルが壊れて開けなくなった、いきなり動かなくなった等に全くのサポート無しで運用するのは耐え難いものです。
そのため初期費用を抑えるのが目的であれば「安くなる」と言えますが、数年間通じての保守費用の累計額を判断すると「高くなる場合がある」となり、どちらとも言えます。
↑ ロックインによるリスク分析(Photo by:Phil Whitehouse)
疑問2:OSSでベンダーロックインが解決できるのか?
答え:特定ベンダーへの依存が弱まるが、それだけでベンダーロックインが解決するとは限らない。
企業内のシステムやハードウェアを1つのベンダーが担っている状態をベンダーロックインと言います。この状態は企業の生命線が1つのベンダーに依存しており、倒産やサポート終了よりベンダーとの関係性が切れると、ユーザー企業に多大な影響がでる可能性があります。OSSは特定のベンダーに依存しないため、OSSを導入することによってベンダーロックインを防ぐ事が出来ます。
ベンダーへの依存度を下げる事で、上記リスクへ対処できます。ロックインを外れると、依存しているベンダーの単価吊り上げに対抗が出来るため、コストを下げる効果もあります。ただし企業理解が深いベンダーに依存する事で業務が円滑に進む場合もあり、マルチベンダー体制よりも専属ベンダー体制の方が安くなる場合もあります。
もしもベンダーが倒産しても、OSSであればソフトウェア保守が(いちおう)可能です。
↑ コードのバグを見つける。(Photo by:Guilherme Tavares)
疑問3:ソフトウェアの不具合修正ができるのか?
答え:ソースコードとビルド環境があれば修正できる。
OSSを導入するメリットに「いざという他社でも何とかできる」状態があります。
OSSはホワイトボックスのため、ベンダーに依頼して修正してもらう事ができます。保守契約内で対応してもらう事も可能です。これがプロダクトの場合だと、納入されたソフトウェアのソースコードが無い場合があるため、根本的に修正が出来ない状況になります。
ただしOSSでもカスタマイズが加えられている場合や、修正しようにもソースコードのビルドに必要なモジュールが欠落しているため修正が出来ない場合があります。Windowsアプリやスマホ向けアプリでよく見られる発生する現象です。
そのため納品にソースコードとビルドに必要なモジュール一式を含めるようにし、以後ビルド条件に変更が加えられた場合は変更差分を受け取るようにする事が求められます。このようにビルド出来ない場合でも、ソースコードがあればビルド出来ない箇所を取り除いて、その部分を新しく作り直す事も(いちおう)可能になります。
↑ テクニカルサポートによる支援サービス。(Photo by:Jacob Bøtter)
疑問4:サポートやドキュメントを受けられるのか?
答え:別途契約すると受けられる。
OSSを使うとサポートやドキュメントが手薄なので、結果として開発・運用で困るというイメージがあると思います。それに対してプロダクトはサポートが充実しており何か合った場合に保護されるイメージがあります。
OSS自体にはサポートはありませんので、サポートを受けたい場合は保守出来るベンダーと保守契約を結ぶ必要があります。
OSSのベンダーだから、プロダクトのベンダーだからと言った点でサポートの質が変わるものではありません。プロダクトのベンダーでも、「当時の開発者が誰も居ないため修正まで1ヶ月待って下さい」と伝えられる事もあります。
OSSで保守・サポートが欲しい場合は、導入するOSSの保守サービスを行っているベンダーを探して依頼するのが手堅い選択になります。導入するOSSの経験とナレッジをもったベンダーに保守依頼する方が、自分たちでは手を加えられない代理店型のベンダーよりも充実したサポートを受けられるかと思います。
↑ ずっと保証してくれる。(Photo by:Mark Morgan)
疑問5:導入するOSSには保証があるのか?
答え:原則ないが保守契約で保証を得る事ができる。
ほぼ全てのOSSはライセンス上、利用者の責任であって開発元は責任を負わないと明記してあります。よってOSSに何かしらの問題があった場合、基本的に無償で保証してくれる先はありません。
ただし開発ベンダーを通じて導入したシステムでOSSが使われている場合、開発ベンダーが導入したシステムを保証します。無保証は自社だけでOSSを導入した場合に限定されます。
そのため自社だけでOSSを導入する場合には、自社内で保守できる環境を構築するか、いざという時に調査・修正を依頼できるベンダーを選定する事がリスクヘッジになります。
要約・まとめ
こうしてオープンソースソフトウェア(OSS)を導入するにあたり良くある疑問を見てみると、未知なもので扱いが分からない事から発生している事が読み取れます。自社が置かれている状況に合わせて整理すると、自分たちがOSSを使う上でのリスクと対処方法が見えてくると思います。
ソフトウェアの保守・カスタマイズ・運用といった基本的な部分はOSSでもプロダクトでも共通していますのでOSSは「0円で全ての問題が解決できる」銀の弾丸ではありません。
OSSにもプロダクトにも両方メリットとリスクがあります。状況に合わせたリスク管理体制を整える事が安心してOSSに限らずソフトウェアを使い続けるためのポイントになります。
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