オーストラリアの精神医学者、ジークムント・フロイトによって提唱された「エゴ」には、“自尊心”の意味がある一方で、“うぬぼれ”と訳されることが多く、また、わがままな人に対しても「エゴが強い」と表現することがあるように、一般的にエゴという単語に対してネガティブなイメージを抱いている人は少なくありません。
しかし、アメリカ初のエベレスト女性遠征隊の隊長として活躍した経験を持つアリソン・レヴァイン氏は、「エゴ」は集団での作業においてポジティブに作用すると指摘しています。
エゴの強い人たちが集まったチームだと、それぞれが自分の好きなように行動してまとまりのないチームになってしまうのではないかと不安になりますが、エゴの強い人たち、つまり自尊心の強い人たちが集まったチームは、どんな難関な場面に遭遇しても「自分たちは突破できる」と信じることができるため、どんなことでもやり遂げられる強いチームになるというのです。
↑どんなに過酷な状況でも「エゴ」が次の一歩を歩ませる
2001年当時、金融企業でサラリーマンをしながら登山家としても活動していたアリソン・レヴァイン氏は、翌年の2002年に実施するエベレスト登頂のため、チームメイト探しの問題に直面していました。
いざ募集をかけてみると、アメリカ初のエベレスト女性遠征隊ということ、またフォード・モーターがスポンサーを引き受けたことにより多くのメディアが注目していたため、志願した人の大半はエベレスト登頂以外のことに興味を示しており、「渡航する際の飛行機はファーストクラスで行けるのか」「お金はどのくらいもらえるのか」というお金やステータスに関する質問が絶えませんでした。
そういった状況で、「登山費用の資金集めに協力したい」「自腹でベースキャンプまで行って登頂を応援したい」など、たとえ自分が選ばれなくても、なんとしてでもこのエベレスト登山を応援したいという人は異色の存在であったそうです。(1)
↑理想のチームメイトはどのような形であれ遠征隊の活動に参加したいという「エゴ」の強い女性たち
登山のスキルや経験を採用の判断基準にしながらも、プロジェクトを応援したいと名乗りを上げた応募者にも目を向け、4人のメンバーが確定しました。興味深いことに採用された人は何かしらの健康上の壁を乗り越えており、隊長であるレヴァイン氏も例外ではなく心臓病の手術を何度か受けていましたし、中には出産の際に命を落としかけた女性もいたのです。
そして、エベレスト登山出発の1か月前に初めて一堂に会すと、当初から個々のメンバーが「自分たちはチームだ」という自信に満ちていたと言い、自分の力ではコントロールできないような大きな困難を経験し乗り越えてきた彼女たちの中に、自分たちなら何が起きても克服していけるという強いエゴ(自尊心)が確立されていたことが、このチームを結束させていました。
↑人一倍「エゴ」が強いのは、コントロール不可能な問題をも乗り越えてきた経験があるから
アメリカの心理学専門家であるボブ・ローゼン氏や、テキサス大学の精神医学助教授であるメリッサ・ドイター氏は、「エゴ」は一般的には、ほめ言葉で使われることはないものの、エゴの強さは集団のリーダー的存在になった場合、ポジティブに作用するとして、その理由を次のように説明しました。
「研究によれば、自分勝手な人(エゴの強い人)ほど自信家でゴールを諦めない傾向にあります。怖気づくことなくゴールへ向かって前進し、積極的に周囲の人に協力をお願いし躊躇することはありません。なんといっても、ゴールに向かうためであればどんな状況でも協力者のケアも必死にこなしますから、良いリーダーになれる素質があるのです。」
↑エゴが強いからこそ、困っている部下がいればすぐに手を差し伸べる
アメリカ、ノースカロライナ州にあるデューク大学は、全米大学バスケットボールトーナメントで何度も優勝していることで知られていますが、このデューク大学で、30年以上男子バスケットボールチームのヘッドコーチを務めるマイク・シャシェフスキー氏は、2008年の北京オリンピックや2012年のロンドンオリンピックでも男子バスケットボールのアメリカ代表チームを率いて金メダルを獲得、オリンピック連覇に導いた優秀なコーチとして有名です。
そんなシャシェフスキー氏は、代表チームのメンバーを選ぶ際に“強いエゴ”を持っていることを条件にしており、実際、名選手と言われる人ほどその傾向があったそうで、頑なにこの条件を譲らない理由を次のように述べています。(2)
「高い成果を挙げるチームをつくりたければ、必要な人材は、優秀で、自分でも優秀だとわかっている人たちだ。それが自分たちは勝てるという自信につながるから。(中略)彼らが自信をにじませ、自分らしくあること。自信を抑えてほしくない。」
↑「エゴ」を抑えてしまったら良い選手にはなれない
シャシェフスキー氏が言うように、「エゴが強い」とは「自信がある」と言い換えることができ、自信のある選手たちが集まることでそれぞれの自信が目標を達成するための力に変わっていき、強いチームと化していくのでしょう。
カリフォルニア大学の研究によれば、エゴの強い人ほど「目標達成」に重きを置いていて、目標を達成するためには周囲の助けを求めることを「恥」だとは思わず積極的に助けを請うため、才能はあるけど自信がない人と才能はないけれど自信がある人を比較した場合、後者の方が仕事で成功する確率が高いと言われています。
レヴァイン氏率いるエベレスト遠征隊員たちも、自分が危険にさらされたときは周囲を巻き込むこと、そして、自分自身も相手が困難な場面に遭遇した時は積極的に手を差し伸べることを、エゴの強いチームメイトたちだからこそ覚悟していたのです。
↑エゴの強い人たちにとって「相手の問題は自分の問題」でもある
アメリカ初のエベレスト女性遠征隊は、嵐を回避するために惜しくも頂上まで残り100メートルのところで下山を余儀なくされ山頂まで到達することはできませんでしたが、体調に何らかの問題を抱えてきたメンバーで構成されたチームで、全員が怪我もなく無事に帰還したことは誇らしいことでした。
レヴァイン氏はチームメイトが、登山中に命を落とすことも珍しくないエベレスト登頂に挑戦し、必ず全員で無事に帰ってくるため、相手のためなら大きな犠牲を払うことを覚悟し、また、相手が自分のために大きな犠牲を払ってくれることをお互いに理解し合っていたと説明しており、彼女はこのプロジェクトの経験からチームを編成する際に求めることを次のように述べています。(3)
「チームを作って高峰に挑むつもりなら、求めるメンバーは必要なものを持ち、自分でもそれがわかっている人たちだ。自分のやっていることに自信を持ってもらいたい。」
↑エベレスト登頂にまず持っていくべきものは「自信」
エベレストという過酷な環境で長い期間共に過ごす登山隊は、メンバー同士の争いが起きることも多いと言われている中で、彼女たちが争うこともなく常に協力し合ってこれたのは、自分たちがエベレスト登頂を達成できるという期待を込められてアメリカ全土の女性の中から選び抜かれたということ、そして、かつて病という困難に立ち向かい克服したことで、誰よりも「自尊心」を持っていたからにほかなりません。
謙虚さは美徳とされることが多い日本ですが、いつどんな時でもそれが正しいわけではなく、チームで目標に向かう場合には、謙虚な人よりもエゴの強い人たちが集まったチームの方がどんな壁にぶつかろうとも「自分たちにはできる」という自信に溢れているため、よい結果を残すチームへと成長することができるのです。
1. アリソン・レヴァイン 「エゴがチームを強くする 登山家に学ぶ究極の組織論」 (2015年、CCCメディアハウス) Kindle 786
2. アリソン・レヴァイン 「エゴがチームを強くする 登山家に学ぶ究極の組織論」 (2015年、CCCメディアハウス) Kindle 873
3. アリソン・レヴァイン 「エゴがチームを強くする 登山家に学ぶ究極の組織論」 (2015年、CCCメディアハウス) Kindle 895
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