「モナ・リザ」や「最後の晩餐」などの名画で知られるレオナルド・ダ・ヴィンチは「万能の天才」と呼ばれ、美術だけでなく、音楽、工学、生物学、数学、建築などの分野でも数多くの功績を残したと言われています。
ダ・ヴィンチはまた、67年の生涯中、40年に渡り解剖学を研究し、数多くの解剖図を残したことで知られていますが、その詳細で正確な描写は現代人が見ても感嘆するほどです。
その「万能の天才」の名前を借りた医療ロボットが、「da Vinci Surgical System」、通称「da Vinci(ダビンチ)」で、日本でも2014年時点で約200台が導入されており、全世界では3,000台を超えています。症例数はアメリカで50万件、日本では年間9,000件に及びます。(1)
↑歴史上の天才が数百年の時を経て蘇る
ダビンチは内視鏡下手術用の医療用ロボットであり、医師は3D画像を見て、アームを動かしながら、患者に直接触れることなく、より精密な手術を行うことができますが、それによって手術の際の傷が従来に比べて小さく、患者への負担が少ないため、術後の回復が早い点にあるとされています。また、医師にとっても従来の内視鏡手術では不可能だった回転、上下左右運動ができる上、操作方法も比較的短期間で習得することが可能です。
↑ロボット医療により、患者への負担は少なくなる
これに対し、医療用ロボットの導入のデメリットとして語られるのは、ロボットを使用した手術の失敗例です。日本でも名古屋大学医学部附属病院で2010年にダビンチを用いた腹腔鏡手術を受けた患者が死亡するという事件がありましたが、「ヘルスケア・クオリティ」誌によれば、ダビンチの手術に関連して傷害174件、死亡71件が発生しているとのことです。(2)
上に挙げた症例数に比べれば、失敗例がごくわずかであることは客観的に明らかですが、人間の命が関係しているだけに死亡例が1件でもあれば、手術用ロボットの導入を見送るべきだという考え方もあるでしょう。
↑人の命が関係してくるため、手術用ロボットはまだまだ問題が山積み
とりわけ日本人はメディアや司法を含め、医師に対する要求が高く、医療にリスクが伴ってはならず、100%安全が保障されなければならないという考えが強くあります。
医師の小松秀樹氏は、どの病院でも起こりうるような医療ミスであっても、ミスを犯した医師に「極悪人」のレッテルを張り、厳罰に処して、被害者家族の処罰感情を満たしているが、それでは医療は進歩しないと指摘し、医療の不確実性について次のように述べました。(3)
「手術においては手が自由に使用できないため、多くの器具が考案されているものの、いずれも落とし穴を秘めており、それぞれ特有の危険が潜んでおり、ときに大出血の原因となる。」
そして、それはダビンチを含めたロボットも同じことであり、人間が設計し、人間が操作するものである以上、成功率100%ということはあり得ません。
↑ミスは避けられないが、失敗すれば医師個人が悪人に仕立てられる
日本でもダビンチを使った手術の保険適用範囲が年々広がっているものの、ダビンチは一台約3億円(「レイブン」の7倍)、維持費に年間2,500万円もかかるため、豊富な資金を持つ病院しか導入することができませんが、アメリカ陸軍が開発した「レイブン」は、手術用ロボットとしては初めてのオープンソース・ソフトウェアを採用しているため、低コストでの導入が可能だそうで、ロボットを使った手術はますます増えることが予想されます。(4)
医療の精度が極限まで高まっている現在、病院側が患者に前もって採用する治療法について説明をきちんと行い、医師がロボットを使った手術に習熟することはもちろんですが、ロボットによる手術の精度をいかに100%に近づけるかということよりも、患者側の死生観が大きく変化していなければならない時点に来ているのかもしれません。
↑重要なのはロボットの精度を高めることよりも、ちゃんと死と向き合うこと
イエズス会司祭のアルフォンス・デーケン上智大学名誉教授はこう語ります。
「医者はみなヤブ医者である。なぜなら、いくら医師が努力しても必ず失敗して、人間は必ず死ぬから。」(5)
執筆家の故・かせ山紀一氏は「医学は単なる科学ではなく、哲学である。医学は病気にあるのではなく、病人にあるのだ」と述べているように、これから精巧なロボットが手術をする時代がやって来て、医療ミスを人間の能力や技術のせいにすることができなくなったとき、誰もがいつかは自分の身の上にも死が訪れることを受容した上で、自分の命に対しては自分で責任を持つ姿勢がより求められるようになってくるのは間違いないでしょう。(6)
↑自分の命を医師やロボットに任せないで自分で顧みる
医療者も患者も、医療が不確実なものであることを認め、自分の病気の治療を医師やロボットに頼り切り、失敗したら彼らのせいにするのではなく、普段から自分の人生をどう生きるかにもっと心を砕くべきなのではないでしょうか。
アメリカでは今ある700以上の職種のうち半分以上が今後20年のうちになくなるといいますが、医療現場を含め、技術的な仕事はロボットにとって替わられるとしても、ロボットには死や生について深く考える「哲学」は不可能です。逆に言えば、それこそが人間に残された責任であり、ロボットによる手術が標準になり始めた今の世界で、医者も患者も今から「哲学」することを始めておかなければ、将来は温かみのない、殺伐とした世界になりかねません。
↑ロボットが普及すればするほど、人間は「生」や「死」について真剣に考えなければならない
1999年の時点で、WHO(世界保健機関)は健康を「身体的(physical)、精神的(mental)、社会的(social)、霊的(spiritual)」の4つの分野において健康なことと定義しましたが、今後、技術的なケアはロボットがカバーしてくれるようになればなるほど、医者は社会的な繋がりや、精神面やスピリチュアルな健康についてより多くの時間とエネルギーを割いて患者をケアしていく責任が増していくはずです。(7)
(1)アレック・ロス『未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった』(ハーパーコリンズジャパン、2016年)Kindle版、683
(2)アレック・ロス『未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった』(ハーパーコリンズジャパン、2016年)Kindle版、708
(3)小松秀樹『医療の限界』(新潮新書、2007年)Kindle版、220
(4)アレック・ロス『未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった』(ハーパーコリンズジャパン、2016年)Kindle版、681
(5)小松秀樹『医療の限界』(新潮新書、2007年)Kindle版、173
(6)小松健治『医者が学んだ祈りの力 自然治癒のパワーを細胞に取り込む生き方』(幻冬舎、2014年)Kindle版、676
(7)高城剛『魂の再起動~魂の声に耳を澄まし、未来を見通す方法』(マガジンハウス、2012年)Kindle版、160
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