起業家のイーロン・マスク氏は、2014年に南カリフォルニア大学の卒業式でスピーチをした際、「成功したければ週に100時間、死に物狂いで働かなければならない」と述べました。週に100時間とは、平日の朝9時から夜中の1時まで、土日はそれぞれ10時間ずつ働くことになります。
あまりにも極端な例に思えるかもしれませんが、日本のエンジニアも負けておらず、リクルート社が実施したアンケートによれば、週平均50時間以上働くエンジニアは全体の6割、60時間以上働く人は全体の2割、70時間以上働く人も全体の7.7%もいました。さらに「将来、労働時間が増える」ことを予想する人も全体の6割に上り、職場で過ごす時間が長く、週中は職場に泊まることを辞さず、週末も睡眠不足を解消するために家で寝るだけというエンジニアの活動実態が伺えます。
↑「死に物狂い」で働けば本当に成功できるのか?
エンジニアは長時間座りっぱなしで仕事をしますが、2002年にアメリカ大統領の諮問委員会によって、座りすぎが死につながるという意味の「セデンタリー・デス・シンドローム」という言葉が作られたように、座りすぎは糖尿病や心血管系の疾患、肥満などを引き起こすとされており、座りすぎの害は喫煙にも匹敵するそうです。
British Journal of Sports Medicineによれば、タバコを1本吸えば寿命が11分短くなると言われており、1時間座ってテレビを見ていれば、22分寿命を縮めることになるとのことですし、アメリカ国立衛生研究所が24万人を対象に10年にわたり調査した結果によると、1週間に合計7時間の運動をしても、一日の大半を座って過ごすグループの死亡リスクは、勤務時間内に活動量の多いグループに比べて50%以上高くなるとされています。(1)。
↑エンジニアは明らかに座りすぎ
ビジネスコンサルタントのトム・ラス氏は座りすぎの問題を解決するために、トレッドミルの上にパソコンモニター、アームレスト上に自作キーボードトレイを取り付け、数ヶ月に渡り、この「ウォーキングデスク」を使って執筆活動をしたところ、背中の痛みが解消されたそうですが、こうした対策が効果的だとしても、会社勤務のエンジニアにとっては、個人的に実行に移すなどできるはずもありません。(2)
座りすぎの問題を解消するためには、どうしても会社ぐるみでの仕組みづくりが必要で、実際、シリコンバレーのIT企業の多くがスタンディングデスクを導入していますが、日本でも2015年8月に楽天が社員1万3,000人分の机を一新し、一台18万円のスタンディングデスクを導入しました。
↑座りすぎは明らかに健康状態に支障を与える
楽天のファシリティマネジメント課の高橋朋之氏は、スタンディングデスクの導入には、「健康というのがオフィスづくりのコンセプトにあった」と話しますが、長時間勤務や座りすぎの問題も含めて、近年、社員の健康を重視する「健康経営」を実践する企業が日本でも増えてきています。
というのも、企業経営においては、人的資本である社員の健康は重要な要素であり、社員の不健康は欠勤や機会損失、生産性の低さを生み、結果として、健康な人に比べて1年間で30万円もの損失を会社に与えているとのデータもあります。
確かにどれだけ長い時間働いたとしても不健康になってしまって生産性が下がれば、クリエイティブな仕事ができるはずもありませんし、長期的にみれば、企業側にも余分なコストをかけることになります。
↑不健康な社員は、そうでない社員に比べて1年で30万円もの損失を与えている
伊藤忠商事でも、2016年6月から「伊藤忠健康憲章」を制定し、「全員健康経営」を実施し始めていて、2016年秋からは20代から30代の若手社員を対象に腕時計型のウェアラブル端末を支給するそうです。これにより、睡眠時間、血圧、脈拍、歩行数などを24時間集計し、看護師から医学的なアドバイスを受けることができるようになるといいます。
伊藤忠は2014年から朝型勤務を導入し、20時以降の残業を禁止していましたが、こうした取り組みもあって、総合商社の中では一人あたりの売上利益はトップ、高い生産性を誇っているとのことです。
↑健康な企業の業績が良いの当たり前
こうした経営の背景にある理念に関して、伊藤忠商事の岡藤社長は「築城3年、落城1日」と語ります。つまり、企業文化にしろ、社員の健康にしろ、それを築き上げ、維持するためには一日一日の積み重ねが必要であり、長い時間がかかりますが、そのようにして築いたものが失われるのはあっという間ということです。
日々の積み重ねで健康を維持している例として、新潟県の三条市のある地区では、一人あたりの年間医療費が他の地域よりも年間5万円も低くなっていますが、その理由として町に江戸時代から受け継がれている狭い路地があり、その路地を歩くのが楽しく、人々の歩く量が自然と増え、他の地域よりも運動量が多くなっていることが見られるそうです。
↑最先端の技術を取り入れ、業界で最も健康的な企業を目指す
もっとも、ITが健康経営の仕組みづくりに有用だとしても、筑波大学の久野譜也教授が、「データの中に眠っている、健康づくりの鍵を見つけることが重要だ」と述べるように、問題は社員が楽しみながら健康管理ができるのに、最も効果的な環境を作り出すことです。
今後はますます多くの企業がウェアラブル端末などを利用して、健康経営を掲げていくようになることは確実ですが、形だけITを利用するのではなく、それが長期的に社員の生産性を高めて維持するためには、データの活用と仕組みづくりをするための創造性も、企業に求められるようになるでしょう。
健康維持が個人だけに課された責任とする時代はもう過ぎ去ったのです。
(1)トム・ラス 「座らない!成果を出し続ける人の健康習慣」(新潮社、2015年)p.34
(2)トム・ラス 「座らない!成果を出し続ける人の健康習慣」(新潮社、2015年)p.48
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