日本人にも人気の観光地の一つ、アンコールワットがあるカンボジアを訪れると気づくことがあります。それは街中で年配層の人々を見かけることが極端に少ないということです。
それもそのはず、カンボジア国民の平均年齢は24歳と言われていますが、その背景には1970年代にポル・ポトによって引き起こされた大虐殺があり、統計によると、たったの4年で国民の4人に1人が殺されたと言います。ポル・ポトが率いた政党クメール・ルージュは、主に14歳以下の少年兵によって構成されていましたが、それは知識を持っておらず、まともな思考や批判ができない子供たちが当時のポル・ポト政権にとって都合が良かったからでした。
↑カンボジア国民の平均年齢は24歳、その背後には暗い過去がある
カンボジアの例は極端ですが、どんなイデオロギーであっても、「国民は愚かであればあるほど良い」というのは、古代ローマ帝国から現在の民主主義国家に至るまで、共通した権力者側の認識です。ローマでは「パン(食料)とサーカス(娯楽)」を与えられたローマ市民は政治的に盲目にされていましたし、現在では3S、つまり映画(Screen)、スポーツ観戦(Sport)、性産業(Sex)を使って大衆の関心を政治に向けさせないようにさせるのは、先進国の常套手段といえるでしょう。
同時に時の権力者は、機密情報に国民がアクセスできないようにしてきました。日本では、確かに憲法21条に基づき、国民には「知る権利」が保障されており、情報公開法等が制定されてはいるものの、政府が自らの権力基盤を脅かしかねない情報を進んで公開するはずもなく、何の力も持たない一般市民は情報において圧倒的に不利な立場に置かれ続けてきたのです。
↑国民がスポーツや娯楽に夢中になっていてくれた方が、権力者は助かる
かつては「物理的」に機密文書が隠されれば、一般市民に打つ手はありませんでした。しかし、現在はすべての情報は電子化されているため、ネットワークに関する高度な知識を持つ人々はそこに「サイバー空間」を経由して、アクセスすることが可能です。それがハッカーと呼ばれる人たちです。
2016年4月、「パナマ文書」が流出し、その情報量と情報価値に世界中は驚愕しました。その中には1977年から2015年にかけて作成された1,150万通の電子メールや文書類が含まれており、動画などの情報がないにもかかわらず情報量は2.6テラバイト、21万以上の法人に関する情報の中には10ヶ国の政治家12人、その親族ら61人の関係する会社、また世界中のセレブが関係する会社のタックス・ヘイブン(租税回避地)に関する情報が含まれていたのです。
↑デジタル化された情報であれば、物理的にアクセスできない情報はない
この流出に関しては、アメリカ大統領選挙前というタイミングから背後に何らかの陰謀があるのではないかという見方もありますが、情報が流失した際、流出元の法律事務所「モサック・フォンセカ」の共同設立者であるラモン・フォンセカ氏は、自分たちはハッキングの被害者であると主張しました。
この情報流出が誰かが意図的に行ったリークなのか、それともハッキングなのか、真偽のほどは確かめようもありませんが、パナマ文書以外にも、近年、アノニマスをはじめ、世界中のハッカーたちが大企業や政府の腐敗や不法行為を暴いてきました。例えば、アノニマスのハッカーは2012年、ウィキリークスの信用を失墜させるための工作を行っていたHBGary社をハッキングし、その企みを暴くためにEメールでのやり取りを公開したり、2014年にはカナダ政府の機密文書をハッキングし、スパイ活動の実体やその居所を暴露したりしました。
サイバーセキュリティの専門家によると、今後も衝撃的なデータが流出したり、ハッキングされたりすることはあるだろうとのことで、サイバーセキュリティ企業OptioLabsの幹部であるBill Anderson氏も、外部の攻撃者が企業のネットワークに侵入し、パナマ文書のようなデータを見つけ、コピーを盗み出すのは簡単だと言います。
↑まだまだリークしていないデータは山ほどある、あとは時間の問題
しかし、たとえデータだけ手に入れても、その価値を活かせなければ意味がありません。パナマ文書の場合も流出したデータは膨大でしたが、そこから真実を暴くためにはデータの解析が必要です。
そこで、パナマ文書の分析に関係した専門家たちは、まずスキャンされた紙の書類をテキストファイルにし、ファイルタイプやタイムスタンプなどのメタデータに基づきインデックス化した上で、グラフデータベースを構築しました。そして、このデータベースに世界中に散らばった370人のジャーナリストがアクセスできるようにし、21万以上の会社に関わる金と人の流れを分析したのです。かつてのように紙とペンだけでは、ジャーナリストはとてもこの圧倒的な情報に太刀打ちできなかったでしょう。
↑しっかりとした知識人によって、ただのデータが情報に変わる
中国語ではハッカーは「黒客」という漢字が当てられ、日本でも「ハッキング=違法行為」だと考える人も多いですが、本来は「ハッキング」とはコンピュータシステムやネットワークに関する高い知識や技術を持つ人が、この弱点を見つけて指摘することを意味しており、ファイルの改ざんや破壊などは「クラッキング」と呼ばれ、区別されています。
例えば、工場の生産ラインや発電所などの重要インフラで使われる制御装置(PLC)を開発した光洋電子工業は、2012年にアメリカのデジタル・ボンド社からハッキングされ、その脆弱性を指摘された際に、「やり方が強引すぎると思ったが、対応を迫られて初めて事の重大性に気付かされた」と謙虚に改善の余地があることを認めたと言います。(1)
↑権力者は次第に追いつめられていく
悪質なハッカーを許容すべきでないことは当然ですが、ハッキングが情報量において圧倒的に不利な立場に立たされている一般市民の「知る権利」を満たし、政府に影響を与え始めていることは確かです。
1981年に設立され、現在3,000人ものメンバーが所属する世界最大のハッカー集団『カオス・コンピュータ・クラブ(CCC)』は2011年にドイツ政府が監視のためにスパイウェアを使っていることを暴露しましたが、その後、発行部数がヨーロッパで最も多いシュピーゲル誌は「メルケル首相がCCCの告発を深刻に受け止めている」というコメントを載せました。
かつて権力を持つものは、自分たちの思うがままに、巧妙に市民の目から真実を隠すことができましたが、これからはそれも難しくなるでしょう。ハッキングでピースを見つけ、ビッグデータの解析がそれらをつなげられる現在、わたしたちは世界の全体像というジグソーパズルを、歴史上かつてないほどに、はっきりと見渡すことができるようになっているのです。
(1)木村正人『見えない世界戦争:「サイバー戦」最新報告』(新潮新書、2014年)Kindle、220
参考文献:
宇田川敬介『パナマ文書公開とタックスヘイブンの陰謀』(青林堂、2016年)Kindle版
本ブログは、Git / Subversionのクラウド型ホスティングサービス「tracpath(トラックパス)」を提供している株式会社オープングルーヴが運営しています。
エンタープライズ向け Git / Subversion 導入や DevOps による開発の効率化を検討している法人様必見!
「tracpath(トラックパス)」は、企業内の情報システム部門や、ソフトウェア開発・アプリケーション開発チームに対して、開発の効率化を支援し、品質向上を実現します。
さらに、システム運用の効率化・自動化支援サービスも提供しています。
”つくる情熱を支えるサービス”を提供し、まるで専属のインフラエンジニアのように、あなたのチームを支えていきます。
No Comments