「偉大な企業であり続けるには、その企業にふさわしい優れた人材を絶えず吸い寄せる必要がある(中略)真の戦いは人材の獲得にこそある」と、時代を超えて生存し続ける企業の法則を見出した『ビジョナリーカンパニー』の著者コリンズ氏は指摘していますが、現在の日本企業の多くがこの人材の獲得に失敗しています。
その証拠に、新卒入社のうち3割が3年以内に離職しているという傾向が、ここ20年間続いていることがわかっており、企業が自分の組織に合った人材を上手く採用できていない実態を浮き彫りにしています。
↑20年もの間、人材採用の3割が失敗に終わっている
こうした企業と人材とのミスマッチングの背景には、面接官による「印象」に基づいた主観的な評価の仕方が原因にあるとして、国内外の企業に人材コンサルティングを行う伊東氏は、著書『科学的手法で絶対に成功する採用面接』でこう述べています。
「面接官がよくつかうその代表的な例を挙げるとすれば、次のような言葉です。『オーラを感じる』『お客さん受けしそう』『いい人だと思う』面接の中で何かを感じ取っていることはわかるのですが、『面接の質問でどの回答に関するものですか?その評価の理由を説明してください』と確認しても、『う~ん、なんとなく全体の感じで』というあいまいな答えしか返ってきません。結局は印象なのです。」
更に、伊東氏は前述の著書で、とある役員の採用に関する発言を紹介しています。
「採用だけは理屈じゃない。結局は“勘”に頼るしかない。もし、根拠や理由を明確にできる採用があれば、知りたいところだ。」
↑面接官が人を選ぶには大した根拠がない
しかし近年では、エントリーシートの書き方から面接の受け方などが全てマニュアル化されており、就活生はマニュアルを利用して採用プロセスに向けた対策を行っているため、企業側は手の内を見られているのが現状で、これまで頼りにしてきた「人事の勘と経験」が通用しなくなっているといいます。
実際、就活の本に「趣味に山登りと書くと、苦しくても目標に向けて一歩ずつ進んでいく人と思ってもらえる」と書いてあるために、わざわざ富士山に登りに行く就活生もいるほどで、その対策の仕方は面接官の裏をかくくらい徹底されてきています。
また、最近では人の性格を16類型に分けて適職を診断するツールを人材採用に利用する企業も出てきていますが、これは受ける人が回答する状況に左右されやすく、診断結果が合っているかどうかは受けた本人が確認しなければいけないという注意付きのものであるため、こうしたツールも安易に導入するのは危険であり、人事の人たちは八方塞がりであることを示唆しています。
↑最近では、就活も徹底的に攻略され始めている
こうした現在の日本の人事が抱える問題を見てみると、今ある採用プロセスの在り方そのものが問われていることがわかりますが、海外企業の中には、人工知能とビッグデータを使った客観的採用プロセスの導入によって、こうした問題の解決に着手し始めています。
例えば、カナダのIT企業「バイメトリクス」が提供する人材マッチングサービスでは、数分程度で終わる20のゲームを通じて、脳科学的視点から認知や感情面における性格診断をすることで、各人に合った適格な企業を紹介しています。
このツールの興味深いところは、ゲームにおける受験者の点数を使って診断するのではなく、ゲームの最中におけるマウスの動かし方、問題を解くのにかけた時間、パソコンを見る目の動きといった人の無意識の行動に焦点を当てることで、その行動特性から各人の性格を暴いている点です。
↑対策ができてしまう表面上だけの面接ではなく、脳科学的にその人の本性が暴かれる
『アクセンチュア』のような世界55か国に展開するコンサル企業や、『クレディ・スイス』といった世界57か国に支社を持つ金融機関などを中心にして、10社以上が2015年8月の時点でこのサービスを利用しており、これによって紹介した求人の成約率が1%から5~10%にまで上がっただけでなく、選考にかかる期間が半年から3か月にまで短縮できたといいます。
また、米企業『プレディクト』が提供する人材マッチングサービスは、ネット上に公開されている膨大なレジュメ情報を人工知能に読み込ませて学習させることで、応募者のレジュメ情報からどんな職種が合うかを算出することができており、同社はこのサービスを転職会社に提供しています。
↑求人成約率は5倍から10倍、選考にかかる期間が半分にまで短縮した
グーグルも同様のマッチングシステムを自社で開発しており、このプログラムではグーグル全社員のレジュメ情報を読み込ませた人工知能が、人事によって不採用にされた応募者のレジュメ情報を分析することで、その判断に間違いがなかったかどうか見直しを行っており、これによって不採用にした応募者のうち1.5%の取りこぼしを防いでいます。
更に、グーグルは普通の技術者と比べて能力が極めて高い技術者の価値観の特徴を分析することで、どの人材を雇用し、どの従業員に重点的な教育的サポートや投資を行うかを決める判断をします。
また、近年では新しいアイデアを創出してくれるクリエイティブな人材を求める企業が増えてきていますが、米企業『スパーシット』が心理学者、機械学習や統計学などといった専門家と開発したサービスを使えば、3~5種類の診断ツールとゲームを通じて、個人やチームのクリエイティビティを測ることができるようになっています。このサービスは2015年4月の時点でニューヨーク州立大学バッファロー校を含めた10の企業で使われており、その実績はサービスの高い信頼性と効果を示唆しているのではないでしょうか。
↑あのグーグルでさえ、採用にはデータ分析に頼る
こうした採用以外の社員の評価、異動、そして配置といった人事も、担当者の「印象」によって左右されてしまう可能性は十分にあり、これによって不適当な評価や人材配置が企業で行われているかもしれませんが、こうした問題も、ビッグデータと人工知能を利用すれば解決できる見込みがあります。
例えば、人にウェアラブルデバイスを身につけさせ、身体が動いている時間(非静止)とそうでない時間(静止)を測定し、それぞれの活動を黒と白に分けてグラフに表すと、身体の運動がバーコードのようなパターンになることがわかっており、ある実験で身体の「非静止」と「静止」のパターンを複数のプロジェクトチームにおいて2か月間計測したところ、これら二つの時間が長いものと短いものがミックスしている、つまり集団内の動きに多様性があるチームと、これらの時間が大体一定であるチームに分かれました。
こうした動きの多様性は、従業員の幸福度と相関があるということがわかっており、2か月間の身体の動きに多様性があったチームにおいては、そうでないチームと比べてプロジェクト開始の5年後までに大きく売り上げを伸ばしました。
↑人工知能に2か月時間を与えれば、5年後のチームの成果が予測できる
また、普段私たちが使う言葉において、どのように文章を組み立て、どんな言葉を選ぶかを分析すれば、生涯において変わらない人の本質的なパーソナリティを知ることもできます。
こうしたありとあらゆる従業員やチームのデータを集め、分析にかけられるようになれば、短期的なチームの売り上げだけではなく、長期的な未来を見据えたチームの評価が可能になったり、各人のパーソナリティや能力に合った人事異動や配置が容易になったりすることで、採用から配置までの人事業務を効率的かつ的確に行えるようになるかもしれません。
実際グーグルは、どの従業員が離職しそうかを予測する自社製のアルゴリズムを利用することで、問題が悪化して離職されるというケースを防ぐための従業員のケアを行うことができています。
↑人事業務を人の手から離れさせ、人工知能に委ねる
人事は営業のような直接利益を生み出す花形の業務ではありませんが、「人事こそ経営そのもの」といわれるくらい企業において重要な部門であるとして、人事業務の経験があるトヨタ自動車の常務役員の吉貴氏はこう述べています。
「人事を考えるということは、会社の経営を考えることとほぼイコールだと思います。したがって、人事に携わる人は、自分の会社が一体何をやっているのか、現場の第一線で何が起きているのか、よく知らないといけないし、常に経営を見ていなくてはなりません。」
しかし毎年新卒採用を行う企業によっては、インターンシップの準備や面接、そして実施、企業説明会や採用面接、さらには内定者への研修といった仕事で、人事は通年忙しいため、経営を見据えたうえでの効果的な人事戦略や研修を考えたり、従業員とのコミュニケーションを取ったうえで制度を作っていく時間があまりとれないのではないでしょうか。
人工知能とビッグデータを使った採用・異動・配置・評価といった人事は、人材と企業の最適かつ効率的なマッチングや、適格な人材の配置と評価をできるようにするだけでなく、人事部が人事戦略を考えることに集中できるようにする役割もあるのかもしれません。
(参考文献)
* 労務行政研究所「日本人事 NIPPON JINJI~人事のプロから働く人たちへ。時代を生き抜くメッセージ~」(労務行政、2011年)
* 伊東朋子「科学的手法で絶対に成功する採用面接 改訂版」(幻冬舎、2015年)
* 福原正大、徳岡晃一郎「人工知能×ビッグデータが「人事」を変える」(朝日出版社、2016年)
* 坂内正夫(監修)「ビッグデータを開拓せよ 解析が生む新しい価値」(2015年、株式会社KADOGAWA)
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