今も日本の各地には町内会などの地域組織がありますが、そのルーツをたどると、第二次世界大戦末期に日本政府が制定した「隣組」に行き着くそうです。
この「隣組」の目的は、10世帯前後を一組にして相互を監視することにあり、大阪市立大学の佐賀朝教授は「隣組は戦時体制を支えるために国家が国民に強制したもので、全体主義を浸透させる装置だった」と述べていますが、それから75年もの歳月が経過しても、国家が国民の頭の中を探り、思想を統制したがる傾向は変わっていないようです。
2015年のアメリカのNGO、フリーダム・ハウスの調査によれば、政府が国民のインターネットを監視している国として、中国、シリア、イランなどが上位に挙がりましたが、同調査によると報道の自由が確保されているのは、地球人口の14%のみで、民主主義国家でもその傾向は大して変わらないのが現状です。
↑どの国も基本的に「監視社会」
例えば、同調査によるとアメリカは、報道の自由が確保されている国として31位でしたが、2001年の同時多発テロ事件を機に、NSA(国家安全保障局)の権限は拡大し続け、裁判所の介入もなしにNSA自らの判断で世界中の人々の個人情報にアクセスできるようになりました。
また、2016年1月に施行されたガイドラインによると、FBIは全米の高校に対して、生徒の振る舞いや言動、信仰や文化を観察し、政府の方針に批判的で将来的にテロリストになる可能性のある生徒を報告するようにと指示したとのことで、アメリカ社会においてはオンライン、オフライン問わず、政府が国民を監視する傾向が強まっています。
↑学校の中まで徹底的に監視させる
こうした政府の監視に対するアプローチとして、ウィキリークスのジュリアン・アサンジ氏のように、政府が何をしているのか、「真実」を公にさらすことを良しとする人々がいます。
スノーデン氏が2013年に、NSAが毎月全世界で970億件のインターネットと電話回線の傍受や、6万1,000件以上のハッキングを行っていたことに関して、複数のメディアに告発したのはまだ記憶に新しいですが、彼は暴露に踏み切った動機に関してこう述べます。
「私は、語ったことのすべて、したことのすべて、創造性や愛、友情の表現のすべてが録音されているような世界には住みたくない。」(1)
↑毎月全世界で970億件のインターネットと電話回線が監視されている
もちろん誰もがそう願いますが、一方ではグーグルを使って世界中の情報にアクセスしたり、フェイスブックで世界中の人々と繋がったりしながら、他方でスノーデン氏のように国家は国民のプライバシーは侵してはならず、監視すべきでないと考えるのは、あまりに理想主義的と言わざるを得ません。
ジュリアン・アサンジ氏は、自分の中心的な価値観に関し、かつてTEDでのインタビューに答え、ウィキリークスが機密情報を暴露するのは「犠牲者を生み出すのではなく、犠牲者を助けるため」と述べましたが、政府によって抑圧されている人々を助ける方法は他にもあるでしょう。
イギリスでは昔からスパイで国難をしのいできた歴史があるため、世論調査会社ユーガブが行ったアンケートによると、国民の64%がイギリスの情報機関の活動に理解を示し、情報機関に能力が過剰に与えられていると感じている人はわずか19%に過ぎなかったとのことです。(2)
監視社会に住む私たち一人ひとりは、ただ、監視社会をやみくもに批判するのではなく、監視社会の悪い面も良い面も受け入れて、ネットを利用してどのように自分と家族を守ることができるかを考える方が、自分たちの生活の質を向上させる上で、より生産的なのかもしれません。
↑スパイを強化することで、国難を凌いできたイギリス (リンク)
考えてみますと、監視社会は何も政府から国民への一方通行に限られるわけではなく、国民も政府に対して、地球上で起こるあらゆる事件、行動、変化を捉えられるようになり、自ら問題に対して働きかけられるようになってきています。
アメリカ合衆国連邦の最高情報責任者を務めたヴィヴェク・クンドラ氏は、人々がロビー活動などの大々的な行動を起こさずとも、直接政府に働きかけることができる場として、「WithePeople」というプラットフォームを作りました。このプラットフォームで社会問題の解決策を政府に対してクラウドソーシングという形で提案することで、すでに、知的財産をめぐる法案や、ライフル規制に関する法案が実際に変更されたと言います。
↑市民から政府に対する提案もクラウド経由で可能になっている
また、マニラでは一般の人が携帯電話やメールによって、あまりに大量の排気ガスを出している車両の目撃報告をすることができる仕組みが環境団体によって作られ、環境団体は苦情が多かった車両のリストを作成し、都市の環境汚染を軽減するために、そのリストを陸運局に提出しているそうです。(3)
このように、環境問題や食品の安全性など、いままで政府に情報が集中し、政府が施策を独占していた問題に関し、国民一人ひとりが端末を用いて情報の発信をしたり収集をすることにより、「監察官」として参与することができ、そういった行動が蓄積されれば、政府や大企業の腐敗や横暴に対する抑制効果となることが実証され始めています。
↑マニラでは、排気ガスを出し過ぎている車を国民が目撃報告
戦時中の「隣組」という相互監視のシステムも、同時に物不足が深刻化する中、配給や行政の情報伝達、空襲時の消火訓練など、生活のあらゆる活動の単位にもなったと言いますが、東京都の大島美津子さんは当時を振り返り、「戦争末期は隣組なしでは生活できなくなった」と述べていました。
冒頭で言及した佐賀教授も、「他に選択肢がなかった国民は隣組を生きるための手段と捉え返し、生活防衛のための組織として用いた」とその積極的な側面を強調しますが、わたしたちもITで繋がった社会を自分たちの生活を守るために活用するたくましさが必要です。
ヴィヴェク・クンドラ氏も透明化によって力の移動がもたらされ、透明化することによって、力は閉鎖空間にいる役人のものから、市民のものとなることを強調するように、監視社会に対する不安を絶えず募らせるよりも、ITによって手にし始めた力をどのように用いるかに心を砕くべきなのではないでしょうか。
(1)木村正人『見えない世界戦争~「サイバー戦」最新報告』(新潮新書、2015年)Kindle、p963
(2)木村正人『見えない世界戦争~「サイバー戦」最新報告』(新潮新書、2015年)Kindle、p1106
(3)ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ『マクロウィキノミクス~フラット化、オープン化、ネットワーク化する社会をいかに生きるか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2013年)Kindle、p485
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