インタースペースが2014年に実施した、平均4歳の子どもをもつ母親を対象にした調査によると、0歳児の24%、1歳児の74%、そして2歳児の85%はすでにスマホを使用しているとのことで、アメリカの作家、マーク・プレンスキー氏は、こうした物心つく前にデジタル環境になじんでいる子どもたちを「デジタルネイティブ」と呼んでいます。
スマホなどの端末はこうした子供たちにとっては、心と体を拡張させたもののようになってきていて、プレンスキーはCNNのインタビューで次のように指摘します。
「人間にとって肉と骨であったこの体は、今ではただのセンサーなのさ。人間というのは時代によって欲求が変わっていくものだ。」
↑0歳児の24%、1歳児の74%、そして2歳児の85%はすでにスマホを触っている
今の「デジタルネイティブ」の子供達は、ネットやデジタル機器が普及した時代に生まれたため、彼らにとってはそれらは空気のような存在で、アメリカのラティチュード・リサーチ社の研究員であったニーラ・サカリア氏は、現実と仮想が混じる世界が普通になっている子供たちについて次のように述べます。
「私たちは、今の子供たちがオンラインとオフラインの境目がなく繋がっていると直感的に理解していることがわかったのですが、彼らはオンラインとオフラインの相互作用がプレイをより一層面白くしていると考えているのです。」
↑子供たちは大人以上に“直感的”にデジタルの世界を楽しんでいる
デジタル端末に囲まれた新世界で生まれた「デジタルネイティブ」とは対照的に、アナログの旧世界で育った現在の親世代のことを、マーク・プレンスキー氏は「デジタル・イミグラント」と呼びます。
デジタル・イミグラントにとってアプリや種々の端末は、「奮闘しながら学ばなければならない」対象として捉えられ、それは言語において、ネイティブの子供たちが現地の言葉や文化を意識せずに自然に習得するのと同じように、オンラインの分野においても大きな感覚の違いがあると言えるのかもしれません。
↑子供が第二言語を勉強せずに習得してしまうように、子供は新しいものを感覚的に取り入れる
これから先、IoTによってオンラインにつながるメディアが増えれば増えるほど、デジタルで構成される新しい世界はますます拡張していくはずで、そうした環境のことを筑波大学助教授の落合陽一氏は、人間とコンピュータが区別なく一体として存在する、新しい自然観「デジタルネイチャー」と呼びます。(1)
デジタル・イミグラントは、仮想と現実を二分化し、デジタルテクノロジーは前者に属すると考えるかもしれませんが、今や両者の距離は限りなく近づいており、デジタルネイティブの親世代が、自分たちが生きてきた旧世界の感覚でデジタル機器やゲーム、アプリを捉え、制限を課すことは、あまりに不合理だと言わざるをえないでしょう。
↑もう親の感覚では制限できないレベルまで来ている
結局のところ、オンラインかオフラインかにかかわりなく、外界の情報を吸収するのは子供たちの脳です。大人の脳は体重の約2%に過ぎないのに対し、新生児は全体の15%もの重量を占められていて、物事を記憶したり、感情を見出したりしながら、脳内の神経細胞の密度は生後1~2年でピークを迎え、それ以降も脳の中身は思春期まで絶えまなく変わり続けていくといいます。
スイスの心理学者ジャン・ピアジェによると、生まれたばかりの赤ちゃんは環境のすべてが自分と繋がっていると感じており、目の前から消えるとその存在が消滅したと勘違いし極度の不安を感じますが、こうした認識が間違っていることは、物を動かしたり、操作することによってすこしずつ学んでいきます。
米国小児学会は、子どもが2歳になるまでは、目の前に見えるものだけで世界を認知しているため、刺激的な映像が現れては消えるテレビやタブレット、そして携帯電話などを見せないように推奨していますが、その段階を過ぎたら、大人は子供たちの感覚に合わせて、自然と遊びながら認知の発育を助けるようなゲームやアプリを使わせることは有効なようです。(3)
↑子どもと大人の認知の仕方は全く異なる
「新しい遊び方」をテーマに子ども向けのデジタルアプリを開発しているトッカ・ボッカ社のプロデューサーであるエミル・オブマール氏によると、小さな子供たちは細部を認識する感覚が非常に研ぎ澄まされており、「意外で面白いこと」「ちょっとした不調和」を見つけるのがとても上手で、そういったことに対して大人の反応とは正反対なのだと、次のように述べています。(4)
「大人は引っかかりをいやがります。タスクにはできるだけ真っ直ぐに進んでいってほしいのです。子どもはちょっとした引っかかりをとても喜びます。やりがいにつながるからです。」
大人は予想外のフィードバックを好まず、タスクをできるだけ障害なく進めていきたいと願っていますが、子どもは、例え小さなことでも何かしたらすぐにフィードバックが返ってくることを好むように、子どもが接する「オンライン」の世界は、子どもの認知の発育に合わせて設計されていることが大事なのかもしれません。
↑子供はモノゴトの「引っかかり」に喜びを感じる
そういった子どもの認知の発育に合わせたゲームアプリを用いると同時に、親は子どもがオンラインの世界だけで満足しているのではないことを忘れてはいけません。(5)
子供は本能的にオフラインでも世界との関わりを求めていて、臨床心理学者の山口創氏も、母親とのスキンシップは子どもに「人は信頼できるものだ」という安心感を与え、父親とのスキンシップは世の中に意識を向け、人と強調する社会性を伸ばすのに欠かせないと述べます。(6)
また、マイアミ大学の小児科医教授のティファニー・フィールドは、未熟児で生まれた赤ん坊のうち、マッサージを受けたグループは、受けなかったグループに比べて、食欲が増すなどして体重が31%も増加したというように、子供の心身の発育にオフラインでの刺激が重要であることは明らかです。(7)
↑スキンシップは長期的に子供の発育に影響する
ソーシャルメディア研究で知られる、ニューヨーク大学の助教授ダナ・ボイド氏は、「デジタルネイティブ」という言葉は、かえって彼らがネットワーク化された社会の中で直面する問題を理解する妨げになりかねないと主張しています。
確かに、スマートフォンは今の親にとって、とても便利な子守ツールであるだけではなく、子どもが言うことをきかないときに頼るのもスマートフォンのアプリで、親に都合よく子供がデジタルネイティブ化しているように見えます。
本来「デジタルネイティブ」という概念は、デジタル機器に囲まれた子供たちをよりよく理解するための言葉であるにもかかわらず、大人が「デジタルネイティブ」という言葉から自分の視点で想像したものによって、子供たちが必要としているものを見誤ってしまうならまさに本末転倒です。
↑どんな言葉も誰の視点から考えるかによって全然意味が異なる
親も、子供向けのアプリやゲームをつくるエンジニアやデザイナーも、今の子どもは自分の頃とは違うと考えたり、子どもを大人より能力が劣った「小さな大人」と考えたりするのではなく、まず第一に、神経系が発達過程であるため、認知の仕方、物事の捉え方が、子どもと大人は全く異なるということを理解しないといけません。
前述のニーラ・サカリア氏は「子どもこそが将来の建設者」と述べますが、子供たちが様々な文化を吸収してはじめて、健全でバランスのとれた大人に成長していけるのですから、デジタルネイティブの発育にかかわる大人たちは、きちんと子どもの発育に向き合い、「オフライン」「オンライン」の境界にとらわれることなく、子供に適切な世界を見せてあげることが大事なのではないでしょうか。
(1)落合陽一『魔法の世紀』(PLANETS、2015年)Kindle、p1850
(2)デボラ・レヴィン・ゲルマン『子どものUXデザイン-遊びと学びのデジタルエクスペリエンス』p32
(3)デボラ・レヴィン・ゲルマン『子どものUXデザイン-遊びと学びのデジタルエクスペリエンス』p36
(4)(5)デボラ・レヴィン・ゲルマン『子どものUXデザイン-遊びと学びのデジタルエクスペリエンス』p71
(6)山口創『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書、2004年)Kindle、p509
(7)山口創『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書、2004年)Kindle、p630
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