エレベーターが開くと、そこは地上200メートルの屋上。そこから30センチ定規1つ分くらいの幅しかない薄い板が外に伸びていて、その先には助けなければならない猫がいる。下を見れば、車が豆粒ほどの小ささに見える高さに自分がいて、一歩前に足を踏み出すと板がわずかに傾くのがわかり、肌には風が吹き付ける- それが仮想現実だとは理性でわかっていても、「落ちたら死ぬ」と考えてしまい、恐怖で足がすくんでしまう。
この仮想現実は、お台場のサイバーシティに4月に開店した「VR Zone」という、バーチャルリアリティ(VR)のエンターテインメント施設の中にあるゲーム「高所恐怖SHOW」を実際に体験してみたある方の感想です。
↑本当に「落ちたら死ぬ」と鳥肌がたってしまう
このゲームで利用者が装着する、目の前に映像を映し出すVRゴーグルは、頭の動きと連動して映像を動かす仕組みになっているため、装着すると、映し出されるエレベーターホールを現実世界のように周りを見まわせるようになっており、本当に自分がエレベーターホールにいるような気になります。
そして利用者の手足にセンサーをつけることで、仮想空間でも手足が自分の動きと連動して映し出されるようにもなっています。
更に、実際に傾く板と送風機、そして風の音などを流すヘッドホンを、自分の動きと連動する映像と掛け合わせることで、視覚、触覚、そして聴覚の3つの点から、利用者の脳を「自分は、風が吹き付ける地上200メートルの薄い板の上にいる」と錯覚させます。
↑感覚をだませば、バーチャルだってリアルだと信じ込ませられる
また、グーグルが2015年秋から無償で行っている教育プログラム「エクスペディション」では、学校の生徒たちはVRゴーグルでマレーシアの熱帯雨林や歴史の舞台、そして職業現場といった150種以上のコンテンツを体験できるようになっており、ニューヨークのとある公立小学校の生徒を対象に行われた際には、先生と生徒はVRゴーグルを通してマレーシアのボルネオ島に冒険に行き、360度に広がるジャングルを体験しました。
こうしたVRゴーグルといった視覚を再現する物以外にも、肌触りである触覚を振動や電気刺激で再現する技術の開発も進んでおり、いずれは医者が手術経験をバーチャルで積んだり、他の人が経験した感覚なども追体験できたりするようになるとして、大阪大学サイバーメディアセンターの清川教授はこう述べています。
「身体感覚の再現は災害や医療ロボットで力を発揮する。選手の感覚を追体験するようなスポーツ観戦も可能になるかもしれない。」
↑ジャングルの感覚だけではなく、匂いや肌触りまでVRゴーグルで表現できるようになる
更には、音がどの方向から、どれくらいの距離から飛んできているかをリアルに再現する音響技術や、匂いの元を放出することで、炎が燃える匂いや潮の匂いなどを再現するマスク、そして甘さや酸っぱさといった味覚を舌の刺激によって再現する電極棒の技術が、音響を専門とする企業Thrive Audio、マスクを作成した米テクノロジー企業Feelreal、そして国立シンガポール大学の研究者達の手によって、それぞれ実現しています。
わたしたちが普段認識している世界は、目や耳といった感覚器からの情報が脳に送られることによって脳が作り出しているにすぎず、もし機械から現実で得られるような感覚を五感に得られるようになれば、バーチャルと現実との区別がつかなくなる可能性があります。(1)
理化学研究所で脳科学を研究する藤井博士も、こうしたバーチャルリアリティの技術が進歩していく未来について、「VRが現実と地続きになり、嘘(仮想)と真実の判断ができなくなる」と述べています。
↑既に、人間の五感は機械が再現できている
こうした五感を再現する技術だけでなく、アップルが2013年に買収したイスラエル企業PrimeSenseが開発している、赤外線やマイクロチップによって身体全体の動きを感知する技術も利用すれば、自分の身体の動きに忠実に応答してくれる仮想現実が生まれ、仮想現実が完璧に自分の感覚とリンクするようになるかもしれません。
↑現実と仮想の境界がどんどん無くなる
その他にも、2015年に関西学院大学の工藤教授らは、ラットの脳神経細胞とコンピュータを接続することによって、神経細胞の指示で移動する「ニューロ・ロボット」を開発し、ロボットが壁に近づくとその情報を脳に電気信号で送るようにもなっており、その情報を脳が理解して自律的に壁を避けるよう指示を出すことも可能になっています。
このような脳とコンピュータの情報交換の技術が進んでいけば、いずれ脳をコンピュータに接続する「電脳化」技術が可能になるかもしれず、そうなれば脳に直接感覚の信号を送り込むといった形の仮想現実も実現するようになるのではないでしょうか。
近年、都市開発の完成予想図の仮想現実を作り、その中をVRゴーグルを使って歩けるようにするといったことも考えられつつありますが、バーチャルリアリティの技術が進展し普及していけば、私たちは仮想世界で時間を過ごすこともできるようになります。そうすると、いずれは仮想世界での都市開発を行い、生活を営むようになる可能性は否定できなくもありません。
その上、グーグルが行っているエクスペディションのようなコンテンツを作ってしまえば、普通の街で生活するのではなく、江戸時代の江戸の町といった歴史の舞台、マレーシアやアフリカのジャングルの奥地、そしてファンタジーゲームのような世界の中といった、非現実的な仮想世界で生活をする人も出てくるでしょう。
現在でも私たちは、パソコンやスマホなどを使ってデジタル世界の中で時間を過ごしています。しかし、いずれは今のようにデジタル世界をスクリーン越しに離れて見るのではなく、デジタルの世界の中に入り込めるときが来て、現実と仮想世界を行ったり来たりするだけでなく、複数の世界で第2、第3の人生を送るのが普通になるのかもしれません。
(1)舘暲「バーチャルリアリティ入門」(筑摩書房、2002年)p.32
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