2010年10月に、Googleが初めて自動運転車を開発中であると発表してからおよそ5年後-2016年1月、テスラモータージャパンが販売する車「モデルS」の車載OSに、ハンドル操作や前方車両の追従などを行うオートパイロット、オート車線キープ、オートパーキングといった操作を行う簡易自動運転機能がアップデートされました。
5年の間に、ドライバーの目(認知)や手足(操作)を代替する自動運転技術が進み、操作においては人間の機能の100倍を発揮すると言われるまでに成長しましたが、その4年後の2020年には、緊急時の操作以外の全てを行う車が、そして14年後の2030年には、人間の操作が一切いらない車が市場に出回ると言われており、自動運転車が私たちの生活に溶け込むまで、あと少しだということを示唆しています。
↑2020年頃から、車をほぼ運転しない生活が始まる
そうした自動運転車の普及を視野に入れ、無人タクシーサービスを行おうとする企業も出てきており、例えばGoogleは、オンライン広告を見て店舗に買い物に行く顧客に対し、無人タクシーによる無料送迎を行うサービスの特許を、2014年1月に取得していて、グーグル広告と連携した新しいビジネスを構築しようとしています。
また、ライドシェアサービスを手掛けるUberは、無人タクシーを提供するサービスの導入に着手し始めており、実現すれば利用料金が現在の6分の1にまで下がると言われています。
近年でも車を所有する人が減り、Uberやタイムズカープラスによる車のシェアサービスは普及しつつありますが、こうした無料タクシーサービスによって利用料金が大きく下がると、車を持つよりもタクシーを使う方が安価になるため、「車は所有するもの」という概念は消え、スマホなどの機器で呼び出すオンデマンドのものとなっていくと言われています。(1)
↑「まだ車を買おうとしてるの?」と言われる時代は近い
このように車の運転が人から機械に移り、車は「所有」するものから「共有」するものになり、車の利用の主流がオンデマンドタクシーに変わってくると、これまでのような一つの車種の大量生産というビジネスの形ではなく、顧客が求める多様なニーズに合わせたオーダーメイドに近い車の生産を、自動車メーカーは求められるようになるといいます。
自動車技術・産業に関するコンテンツの提供を行う、オートインサイト株式会社の代表を務める鶴原氏は、そうした流れの理由として、オンデマンドの使い方が主流になってくると、顧客がさまざまな車両に乗る機会が増えていくため、利用するタクシーへの消費者の目が厳しくなることを挙げています。(1)
更には、無人タクシー会社が他社との差別化を図るために、利用者のニーズをくみ取った多様なタイプのタクシーを提供するようになるため、タクシーは単なる移動手段ではなく、多様な目的に合わせたものになるというのも、一つの理由だと述べています。
↑タクシーはただの移動手段ではなく、使い手に合わせて様々用途を持つようになってくる
既にその先駆けともなるタクシーサービスが、2014年からスウェーデンのストックホルムで試験的に始まっています。ストックホルムのタクシー会社「タクシーストックホルム」は、セラピストが乗っているタクシーを配車していて、利用者は乗っている間にカウンセリングを受けることができ、これからのタクシー業界のあり方の未来を示唆しています。
前述の鶴原氏は、人が運転する必要がなくなると、移動時間を活用するようなサービスを手掛けるビジネスが生まれるかもしれないとして、以下のように述べています。(2)
「例えばフロントウインドー前面を大型ディスプレイにして、映画などの動画コンテンツを楽しむことが可能になる。サイドウインドーやリアウインドーまでも使い、周囲360度の映像が楽しめる社内専用のゲームなどというのも登場しそうだ。もちろん、社内を仕事場にする人もいるだろう。」
↑「この車は何ができるの?」がこれからのキーワード
このように流通する車が、多様な車内サービスを提供してくれるソフトウェアを使えることが前提となってくると、車は現在のスマートフォンのように、「どのOSが搭載されていて、どのバージョンが利用できるか?」「この車は、どのアプリが使えるのか」ということに左右されるようになるため、車の価値は「ハードウェア+ソフトウェア」によって、決まるようになってくることでしょう。(3)
むしろ、車の良さの基準はアプリなどのサービスだけでなく、車載OSがどれだけ快適で上手い運転をしてくれるかによっても決まるということを考えれば、エンジンの燃費効率やサスペンションの良さといったハードウェアの質よりも、ソフトウェアの方が車の価値を決めるようになるのかもしれません。
↑ひたむきに車の性能を上げたって、客は見向きもしなくなる
また、ソフトウェアの重要性が高まるということを考えれば、スマートフォンと同様に、ソフトやアプリ開発を行うIT企業の参加が必須となり、自動車メーカーはこれまであまり行ってこなかった外部企業との協力や、アプリ開発のために車の構造のオープン化といった取り組みが求められるようになるでしょう。(4)
トヨタは既にGoogleの車載OSアンドロイドに対抗して、独自の車載OS「Automotive Grande Linux」を開発中ですが、第三者がアプリ開発を行えるように、ネット上にアプリ開発のソフトウェア・デベロップメント・キット(SDK)を公開したり、ハッカソンを開催するなどして、外部との協力を強めています。(5)(6)
またトヨタは、データ分析のためのインフラには、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」を利用し、2016年4月には、マイクロソフトとの提携を強めるために、共同出資で子会社「トヨタ・コネクテッド」を設立しています。
↑トヨタは生き残りをかけて、マイクロソフトとも提携を組んだ
2020年を目途に日本政府が自動運転車の法整備を目指しているということを考えれば、法的にも技術的にも、2020年頃に自動運転車が実用可能になり、日本に出回り始めるということは間違いないでしょう。
そうなれば自動車メーカーは、それ以降無人タクシー会社から、ほぼオーダーメイドかつアプリが利用できるような車の製造を求められるようになり、これまでのような自社開発、そして一つの車種の大量生産といった企業運営の仕方では、これから市場が求めるニーズに対応しきれなくなります。
長い間自動車メーカーは、関連もしくは系列メーカーに部品を作ってもらい、それを自社工場で組み立てて売るという、閉じた環境でビジネスを行ってきたと言われていますが、自動運転車によって自動車メーカーは、トヨタが現在取り組んでいるように外部の人材や企業とつながり、自動車生産の新しい生態系を構築しなければいけない時代がやってきたのかもしれません。
参考書籍)
1. 鶴原 吉郎, 仲森 智博「自動運転ライフスタイルから電気自動車まで、すべてを変える破壊的イノベーション 」(日経BP社、2014年)Kindle p.804
2. 鶴原 吉郎, 仲森 智博「自動運転ライフスタイルから電気自動車まで、すべてを変える破壊的イノベーション 」(日経BP社、2014年)Kindle p.1020
3. 泉田 良輔「Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない」(KADOKAWA/中経出版、2014年)Kindle p.506
4. 鶴原 吉郎, 仲森 智博「自動運転ライフスタイルから電気自動車まで、すべてを変える破壊的イノベーション 」(日経BP社、2014年)Kindle p.848
5. 桃田 健史「IoTで激変するクルマの未来」(洋泉社、2016年)p.63
6. 桃田 健史「IoTで激変するクルマの未来」(洋泉社、2016年)p.59
本ブログは、Git / Subversionのクラウド型ホスティングサービス「tracpath(トラックパス)」を提供している株式会社オープングルーヴが運営しています。
エンタープライズ向け Git / Subversion 導入や DevOps による開発の効率化を検討している法人様必見!
「tracpath(トラックパス)」は、企業内の情報システム部門や、ソフトウェア開発・アプリケーション開発チームに対して、開発の効率化を支援し、品質向上を実現します。
さらに、システム運用の効率化・自動化支援サービスも提供しています。
”つくる情熱を支えるサービス”を提供し、まるで専属のインフラエンジニアのように、あなたのチームを支えていきます。
No Comments