2013年、オックスフォード大学マーティン・スクールの研究者たちは、アメリカの700を超える職種の未来について調査をしたところ、米国では、これからたった10~20年の間に、今人間が従事している仕事の47%がロボットやコンピュータに奪われるという調査を明らかにしましたが、中国ではさらに、これよりも早いペースで雇用が失われていくと予測されています。(1)
1980年代以降、中国は人件費の安い労働力を求めた世界中の企業の製造拠点とされ、「世界の工場」と呼ばれるようになるのに伴い、1980年から2004年までに、総計1億6,000万人以上の農業労働者に、都市部での就業機会が与えられました。
しかしその後、工場に組み立て用ロボットが次々と導入された1995年から2002年の7年間で、中国では製造業に携わる労働人口の15%を占める約1,600万人が、すでに職を失っており、さらにこのスピードは加速するばかりです。(2)
↑中国の工場はまだまだ序章に過ぎない
映画「チャーリーとチョコレート工場」でも、主人公チャーリーの父親が、勤めていた歯磨き粉工場でロボットに仕事を奪われてしまうというシーンがありますが、中国の工場で使われているロボットの数は、2014年に世界の工業用ロボットのおよそ4分の1を占め、2013年からのたった1年間で54%も増加しているように、中国の労働者にとって、ロボットは自分の居場所を奪う脅威というほかありません。
中国で製造業の雇用が減らされているのは、中国の人件費が高騰していることや、知的財産権を守ることが難しいなどの理由もありますが、特に日系企業にとっては中国人労働者による機密漏洩(ろうえい)は深刻な問題です。
また、漏洩元の78%が従業員によるもので、彼らの多くは先を争って、より機密性の高い情報をネット上にアップすると言います。
労働者を雇用することには課題が多いのに対して、ロボットの場合、企業秘密を奪われる心配もなく、また、どんどん精度があがっているため、人間よりも生産性が高く、長期的に見た場合の費用も安く済みます。
アメリカのロボット工学者、ロドニー・ブルックス氏が開発した「バクスター(Baxter)」という産業用ロボットは、工場の製造ラインから流れてくる製品を箱詰めしたり、製造ラインへ部品を流したりといった作業をこなすロボットですが、人間の脳のように仕事の目的を理解する能力があるため、細かな作業の変更に応じてプログラミングを書き換える必要がなく、週5日、1日8時間の仕事を3年間任せたとすると、時給はたったの350円で済み、規約や契約といった約束や労働環境の整備など福利厚生も不要になります。(3)
↑ロボットの場合はミスも少なく、時給はたった350円
バクスターが開発されたのは2012年でしたが、ロボットがビッグデータを解析し、そこから一定のモデルやパターンを導き出す「機械学習」や「ディープラーニング」によって、目的を指示すれば、ロボットが仕事をしながら効率のよいやり方や答えを自分で見つけ、作業をすることができるようになってきているため、ロボットは人間よりもむしろ「やる気のある」労働力ともいえるのかもしれません。
また、「クラウドロボティクス」といって、必要な計算や処理を巨大なデータセンターに肩代わりさせることができ、ロボット自体がメモリや計算能力を搭載していなくてもよくなってきた上に、このクラウドロボティクスがあれば、必要なソフトウェアのアップグレードも一瞬にして済ませることができるなど、さまざまな手間が省けるため、安価で高性能なロボットが市場にどんどん出回るようになりつつあります。
↑ロボット自身が効率の良いやり方を自分で見つけ出す
ロボットによってコスト削減ができ、安心して仕事が進められることが製造業で証明されたため、日本政府は2016年度当初予算案に中小企業やサービス分野へのロボット導入を補助する事業費23億円を計上し、実際、サービス業でも製造業のような仕組みを整え、ロボットを導入しているところが増えています。
寿司チェーン店として知られる「くら寿司」は、サービス業務の自動化をすすめていますが、ベルトコンベアがウェイターの代わりをするだけでなく、品質管理や会計もすべてコンピュータによって行われ、それによって一皿100円という低価格での寿司を消費者に提供することが可能になっています。
ロボットはお客に温かな微笑みを浮かべることはありませんが、注文ミスや計算ミスをすることはあり得ませんし、私生活や体調などに左右されずに、間違いなく任務を遂行することができますから、こういった性質を比べれば、ロボットは人間よりも「一つの目的を達成する仕事」に強いことは確かで、産業革命以降、私たちが効率化を求めて徹底してきた、一つの役割を担う「企業の駒」としての仕事は、ロボットに任せたほうがいい仕事をしてくれることは、ほぼ間違いありません。
↑産業革命以来の、効率化に向けた新しい世の中のバージョンアップ
ロボットが私情や環境に左右されずに「一つの仕事」に集中できるのは彼らの強みですが、裏を返せばその仕事以外のことには興味を示すことがないとも言え、これから私たち人間に求められるものは、これまで仕事とは切り離さなければならなかった私的な感情の部分を強みに、さまざまなことに手を広げ、それらをつないでいく仕事なのではないかといわれています。
英国の大手デザインファーム、シーモアパウエルでシニアデザイナーを務めている池田武央氏は、「H字型人材」、つまり自分の専門分野と他の人がもつ専門分野を繋ぐ横棒を持っている人材が必要だと述べ、ピーター・ドラッカーはそれを「パラレルキャリア」と表しましたが、この分野に関する著作でも知られる柳内啓司氏は、それは「中学校時代の勉強とバスケ」のような「二足のわらじ」のようなもので、2つの活動を同時にやることによって相乗効果が生まれると言います。
↑通常の仕事と全く違う分野の業種を組み合わせることが相乗効果を生む
例えば、前述の柳内氏は、エンジニアの卵としてWEBデザインやビックデータの解析の仕事からスタートして、その後はテレビ局に入社し、番組制作の「照明担当」を経験し、現在ではテレビ局でコンテンツ戦略を担当しながら、会社外でも講演会や書籍プロデュース、さらには自転車サークルやバンド活動にも参加していると言いますが、こうした一見すると関係性のない複数の活動がつながり、互いに影響を及ぼし合う中で、予想できない偶然の産物(セレンディピティ)をつかむことができるようです。
分野がまったく異なる複数のことに携わる働き方においては、キャリアの境界もタスクのゴールもあいまいになり、バラけているように見える一つ一つの「仕事」が、一つの人格に統合された、誰にもまねできない個々人の生き方を作り出すため、「一つの仕事」に対して完璧を目指すロボットの働き方とは、およそ似つかないものになります。
↑2つ以上の職業を組み合わせることで独自性を生み出す「◯◯の専門家という言葉はもうお守りにしかならない。」
かつて16世紀のイギリスで「靴下編み機」が発明された時、エリザベス1世は開発した技術者に対して、「この発明は職人の仕事を奪い、彼らを路頭に迷わせる」と述べ、その技術に特許を与えなかったと言います。
それでも時代がオートメーションへと移行したように、私たちもロボットの時代がやってくることを止めることはできないのですから、ひとつの目的に通じる仕事を効率的に遂行する仕事はロボットに任せ、人間はさまざまな経験や知識のつながりから、自分の生き方をデザインすることに集中すべきなのでしょう。
↑産業革命と同じように、ロボット革命も止めることができない未来
イタリアの学生を対象にしたロボットに対するある意識調査では、ヒューマン・アンドロイドに対して嫌悪感が強く、「お願いだから、人間のようにリアルなアンドロイドは作らないで!」と懇願する回答があったほどだそうですが、本当に恐れないといけないのは、ロボットのように効率化と生産性を軸に働くことが普通になって、ロボット開発が進むことで自分の仕事だけではなく、アイデンティティーまでもが失われていくことなのかもしれません。
今後、ロボットによって人としての生き方を変えることを余儀なくされることは、私たち一人ひとりが本当に自分らしく生きることに目覚めるために巡ってきたチャンスでもある、そう思えたらなら、人類はまだまだ成長していけるのではないでしょうか。
参考書籍)
(1)小林雅一「AIの衝撃 人工知能は人類の敵か」(講談社現代新書、電子書籍版2015年)p475
(2)マーティン・フォード「ロボットの脅威-人の仕事がなくなる日」(日本経済新聞社、電子書籍版2015年)p430
(3)長沼博之「ワークデザインこれからの〈働き方の設計図〉」(CCCメディアハウス、電子書籍版2013年)p201
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